689 名前:名無しさん@おーぷん[sage] 投稿日:20/12/24(木)02:39:05 ID:BJ.rq.L1 [1/2] この時期になると思い出す。 ある朝突然夫が逮捕された。性犯罪の容疑だと言われた。夫は最後まで否認し続けていた。 犯罪が起こったとされる日、私達は共通の友人に招待され友人宅でささやかなお祝いをしていた。 犯行現場とされる場所は友人宅から車で行く様な距離だし私達も基本ずっと一緒にいた。 私達は友人宅に電車で赴き車も友人所有で鍵はずっと持っていた。 買い出しに近くのコンビニに行ったので防犯カメラの映像もあった。 ちゃんと証言もしたしすぐに間違いだと釈放されると思っていた。 被害者とされる女性は夫の会社近くの店で働いていた人だった。 その時に被害者をターゲットにした、と言われたが、夫は 「面識はあるかも知れないが店員の顔なんて一々覚えて無いし、誰かも分からない興味も無い」 と主張した。これは事実だと思った。 しかし裁判では夫の否認も自称被害者の女性の証言ばかりが採用された。 被害者が嘘を吐く理由が無い、とまで相手の弁護士は言い放った。 警察の捜査もずさんで、徒歩だと片道1時間近くかかるが全速力で走れば20分で着く。 だから犯行現場まで往復40分弱でつき10分足らずで最後までは未遂だが暴行を働いた。 理論的には可能だろう。そんな事を堂々と主張された。 夫は有罪になった。そんな馬鹿な、と思った。 「犯行が不可能であるとは証明出来ない、被害者の証言も信憑性がある」 それが理由だった。最後まで否認し続けていた夫は悪質だと判断され実刑判決を食らった。 夫とは泣く泣く別れ、逮捕から裁判までで会社も解雇され、 近所でも噂を立てられ遠く離れた地元への引っ越しを余儀なくされた。 まだ小学生だった娘は夫と別れるのが辛く毎日泣いていた。私も泣いていた。 夫には度々面会に行ったが、「やり直そう」とは言われなかった。 「家族の為にも自分とは離婚してくれ」そればっかりだった。 私は夫がやる訳無いと信じていたから、無事刑期を終えたらまた家族3人で一緒に暮らそうと言い続けた。 被害者を裁判で訴えて、あの証言が嘘だと言わせようとも言った。夫はただうなだれていた。 夫が釈放され、迎えに行った。久しぶりに外で会う夫は酷く痩せていた。 しばらく一人で療養し、仕事などの準備が出来たら迎えに行くという言葉を信じ、夫の実家へ帰らせた。 それが夫と会った最後だった。 数ヶ月後、夫は自殺の様な形で事故死した。 義母からは「保険金があるから、全て私達に上げてやって欲しい。 これが迷惑かけた自分に出来る最後の事だから」と涙ながらに語られた。 義父は既に亡くなり、夫は一人息子だった。 義母も後を追うように亡くなり、全ての財産を私達に相続するという遺言まで遺してくれた。 受け取る訳には……と思ったけど、私達も少ない貯金で何とか生き永らえていた。 噂が出回り、居場所も職場も転々とし、余裕は全く無かった。 私達が夫が身を削って遺してくれたお金で何とか暮らす事が出来た。 690 名前:名無しさん@おーぷん[sage] 投稿日:20/12/24(木)02:40:40 ID:BJ.rq.L1 [2/2] それから、細々と暮らし娘も成人し、地元からも離れ誰も知人がいなかった土地での暮らしも落ち着いた。 娘も結婚し、孫の顔も見れるかも知れない。やっと人並みの人生に戻ってきたと思った。 そんな矢先、あの事件の被害者とされる女性から手紙が送られて来た。 女性からの手紙にはこんな事がかかれてった。 私は当時、交際相手からのDVに悩まされ非常にノイローゼだった。 ストレスからか浮気し、更にDVが酷くなるという悪循環だった。 一夜限りで知り合った様な男とも関係を持ち、無理矢理される様な時もあった。 そんな中、浮気を責められそれを否定したいと思い、暴行の様な形で無理矢理されたと言ってしまった……かも知れない。 たまたま浮気相手と夫の背格好が似ていて名前も社員証で何となく覚えていたので、 思わずあの人に乱暴された……と言ってしまったかも知れない。 とにかくあの時は自分を守ろうとして必死でした。もしかしたら夫さんは、本当に犯人では無かったのかも知れない。 私は結局交際相手と結婚したが、夫とも子供とも上手く行かずに別居している。 そんな中で病気になり先も長くなく誰も見舞いに来ない中、過去の事を思い出す様になった。 そしてあの時の事件の事を思い出し、謝らなければいけないと思った。 もしかしたら私は、一時の過ちと逃避で夫さんを犯人にしてしまったのかも知れない…… 直接会って謝りたい。あなたの事は少ない貯金で何とか探し出した。連絡を下さい。 溜め込んでいた怒りが一気に溢れ出した。 私はある日突然愛する夫を、娘は大好きだった父を奪われた。 それだけじゃなく、あの頃持っていた何もかも無くしてしまった。 私達の大切な日々は二度と戻っては来ない。ふざけるなと思った。 もし会ったら怒りで何をするか分からない。でも一度会って真実を確かめておきたい。 そう思う気持ちもゼロでは無い。 こんな事は今の土地での知人友人にも相談出来ず、母に相談してみた。 母は言った。 「あの事件の事はもう忘れた方が良い。 真実がどうであれ、夫君が犯人であろうがなかろうが今は変わらないのだから」 私は怒鳴ってしまった。電話を切ってから泣き崩れた。 私達にとって、あの事件は終わっていない。 今まで抑えて来た憎しみが募って仕方が無い。 私はあの女の居場所までは知らない。でも連絡は取らない方が良いのかも知れない。 ただただ、過去の傷を抉られて、苦しい。けど今は幸せに生きている娘にもこんな事は言えない。 一人ぼっちの家でどうしようもない憎悪を抱え込み苦しんでいる。 時間は何も解決しなかった。