転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1565362353/ 1: ◆Rin.ODRFYM 2019/08/09(金) 23:52:33.63 ID:sTJbwKvU0 ■ 一章 半分と半分 私の全身がすっぽりと入ってしまうくらい大きな姿見の前で、くるりと一回転。 片方の脚を上げてみたり、腕を広げてみたり、私の動きに伴って、当たり前だけれど鏡の中の私も動く。 そうやってしばらく鏡の中の自分を眺めることに夢中になっていたところ、ノックの音が三度飛び込んできた。 「どうぞ」 私がドアの向こうへ声を投げると、数秒の間があって、その後にゆっくりとドアノブが回る。 おそるおそるとも言うべき控えめな開き方でドアが少しだけ開いて、その隙間に滑り込むようにしてノックの主であろう、一人の男がやってきた。 視線がぶつかる。 2: ◆Rin.ODRFYM 2019/08/09(金) 23:53:46.49 ID:sTJbwKvU0 「おおー……」 「その……どう? ですか?」 「うん、良い。良いですね。めちゃくちゃ似合ってます。やっぱり黒と白でメリハリが効いてますし、何より渋谷さんはスタイルが良いのでこういうシンプルなものが一番映える」 しきりにうんうん頷いて、まじまじと見てくるこの男こそ、私を担当しているプロデューサーだ。 プロデューサーであると同時に私を芸能界へ引き込んだ張本人でもある。 彼との出会い、スカウト、そして私が決断するまではそれはもういろいろなことがあったのだが、今は横に置いておきたい。 というか、あまり思い出したくない。 「サイズ、問題ないですかね。採寸してからの発注なので問題ないとは思うんですけど」 「はい。大丈夫です。ぴったりで」 「良かった。……それにしてもやっぱり似合うなぁ」 またしても彼の視線が私の胸元からふとももにかけてを往復し始める。 3: ◆Rin.ODRFYM 2019/08/09(金) 23:54:41.04 ID:sTJbwKvU0 今日は、撮影のお仕事で使用するという水着の試着と、そのお仕事に際しての諸々の確認をするべく事務所に呼び出されていた。 黒のビキニスタイルの水着に、白のショートパンツを合わせた至ってシンプルな水着だが、確かにセンスは悪くない。 胸の真ん中にあしらわれた大きなリボンはかわいいし、用意してくれているブレスレットや髪飾りなどの小物類も、私をイメージしてデザインされているだけあって特別感もひとしおだ。 しかし、これら全てがこの男の趣味であったらどうしようか。いや、どうしてくれようか。 などと考えながら、未だ私のことをまじまじと眺めているプロデューサーの視線から逃れるように一歩右にずれた。 「その、気に入ったのはわかったので。もう、いい?」 「あっ。ごめんなさい。はい、大丈夫です。素敵でした」 最後はただのお前の感想ではないか。 そうツッコみかけて、踏み止まる。 「ん。じゃあ着替えるので、また出てもらっても……」 「あ、はい。すみません、すぐに」 今度は慌ただしくドアノブを回し、ばたんと部屋からプロデューサーは出ていった。 続きを読む