高森藍子「時間の果てで待っていて」

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転載元 : https://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1570713102/l10

1: ◆cgcCmk1QIM 19/10/10(木)22:11:42 ID:trS
●高森藍子「時間の果てで待っていて(前編)」


○プロローグ/雨を想う

 みなさんこんにちは、高森藍子です。

 皆さんは普段、折り畳み傘を持っていらっしゃいますか?

 普段は持っているけど今日は忘れちゃったって人も、いらっしゃるのではないでしょうか。

 そして、傘を忘れた日に限って雨に降られたりなんかして……ふふ。

 晴れの日が続くと、人はやがて雨の日の心配を忘れてしまいます。 

 過ぎた昨日がさして今日と変わらず、暖かい日に恵まれ続けたとしても、やがて天気はめぐり、雨は降るもの。

行く道が、思った場所に繋がっているとは限らないもの。

 それは誰もが知るあたりまえの事なのだけど、多くの人は雨に凍え、道に迷ってから初めてそれを思い知るのかもしれませんね。

 ――あの日私は、対面に座るお医者さまを見つめながら、そんなことを考えていました。

「高森藍子さん。一刻を争うことなので、単刀直入に申し上げます」
 
 お医者さまは淡々とした口調で、ずらりと数字が並んだ資料や画像を見せてくださいました。

 数字や画像の意味は半分も解りませんでしたが、それに続いたお医者さまの言葉、その意味するところは充分に理解できます。

「検査結果は陽性。貴女は、レディ・グレイ症候群と判定されました」

 高森藍子は、死病を患ったのです。

 ――それは12月も半ばをすぎた、ある日。

 冬とは思えない、陽射しの暖かな昼下がりのことでした。


2: ◆cgcCmk1QIM 19/10/10(木)22:13:01 ID:trS
          ◇

 レディ・グレイ症候群はつい先年発見されたばかりの病気でした。

 患者さんの数は少ないのだそうですが、報道で何度も取り上げられたので、その名は広く知られていました……原因も治療法も不明の、不治の病として。

 進行すると高熱と激しい痛みに苦しみ、朽ちるように痩せさらばえて死んでいく、とても苦しい病気。

 ただ、人から人へとうつる病ではないらしい――恥ずかしながら、私が病気について知っていたのは、そのぐらい。

 告知の後にお医者さまがもう少し詳しい説明をしてくださったと思うのですが、後になってそのあたりの事を思い返そうとしても、はっきりとは思い出せませんでした。

 一緒に診断結果を聞きに来た両親やプロデューサーさんは告知にかなり慌てていたようなのですが、その記憶もなんだか漠然としていて。

 ――そのかわり、病院を後にして一人で歩いた帰り道の景色がとても綺麗だった事。

 そしてその道で感じたことは、今でもとてもよく覚えています。

 ひどく心配する家族やPさんに一人になりたいからと無理を言って、別れて歩いた帰り道。

 川沿いのその道はプロダクションにも近くて、事務所の子たちがランニングにも使っている、私自身何度も通って見慣れている場所。

 だけどその日、景色は違って見えました。


3: ◆cgcCmk1QIM 19/10/10(木)22:14:39 ID:trS

 川のきらめき、遠くかすむ建物、軒先の花鉢。

 そんなものがどれも素敵に輝いて、私の目にきらきらと飛び込んできたのです。

 こんなに素敵な光景を今日に限ってどうしてこんなにたくさん見つけることが出来るんだろう、こんな素敵なものに今までどうして気がつかなかったんだろう。

 なんだか不思議で、すてきで、見逃せなくて、目を見張って。

 私は陽が傾くのも気にせずに、夢中で写真を撮りました。
 
 そして影がうんと長くのびる頃。

 私はすてきな野菊の群生を『発見』しました。

 夕陽の茜にあざやかに染まる白い野菊たちの姿がとても素敵で、しばらく見惚れた後夢中で写真に収めて。

 そして私はそれがとっても良く撮れたからとメニューを呼び出して、画像を確認して――

 凍り付いたんです。

 だって、たった今撮ったのとほとんど同じアングルで撮られた、同じ群生の写真が、もうデジカメの中にあったんですもの。


4: ◆cgcCmk1QIM 19/10/10(木)22:15:25 ID:trS
 驚いて見直すけど、間違いありません。

 その群生は、今まで何度も写真に撮ったことのある、見慣れたはずの場所でした。

 いえ、その群生だけじゃなくて、今日に限って見つけたと思ったいくつもの素敵な光景は、どれも私がよく見知り、何度も写真に収めた場所ばかり。

 そう、今日に限って素敵な光景を見つけることができたのでは、なかったんです。

 私の目には、いつもの景色が今日に限って輝いて見えていた。

 そして、そんなことにも気付けなかった。

 そのぐらいには死病の宣告に動揺してしまっていたのだと、私はようやく気がついたんです。

 私は、どんな顔をして告知を聞いていたのでしょう。

 私はここで初めて、宣告を受けた後のお医者様たちのお話をぜんぜん覚えていないことを自覚しました。

 先生やPさんの話がぜんぜん頭に入らないほど、呆然としていたのでしょうか。

 ようやくじわりと、それまで感じたこともないような気持ちがおなかの底からわき上がってきました。

 痛みや苦しみといった差し迫った自覚症状があったわけではありませんから、それははっきりした恐れや苦しみとは違います。

 あえて言葉にするなら、夏休みの終わり、ふと足下に迫る秋の気配に気付いて、忘れていた時の流れを思い出した時のような、寂しさ、心細さ――

 そんな、はっきりした形を持たない不安だったと思います。



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