142 名前:名無しのオプ[] 投稿日:2010/04/11(日) 13:37:09 ID:+J2WKEJu ある山で滑落事故があった。 あわや転落死かと思われた瞬間、男は片手で草を掴み、崖にぶら下がる格好で何とか一命をとりとめた。 だが、山奥に通りかかる人もないまま1時間がすぎようとする頃、 遂に男の右手は限界に達しようとしていた。 男は自らの半生を振り返った。 「もはやこれまでか・・それにしても何という人生。貧しい村に生まれて極貧生活の末、 同じく貧困にあえぐ村人を助けようと犯罪にも手を染めたが失敗、そして逃走・・・ そのあげく、こうして逃げ込んだ山で滑落。寸前で助かったとはいえ、都合良く助けなど来るまい。 何故俺ばかりこんな目に・・・神など存在しないということか・・・」 もう駄目かとあきらめかけた時、背後から声が聞こえ、その声は包み込むような温かさでこう言った。 「長い苦しみによう耐えたのう。だがお前はもう助からん。お前は生まれてきた場所が悪すぎた。」 男はハッと我に返り死にもの狂いで半身を返した。 するとそこには、古くからの書物に描かれているような、紛うことなき神の姿があった。 「おお・・!」 男は思わず声を漏らした。 「しかし他の者を助けんと願い、我が身を捧げてきた自己犠牲の精神は実に尊いものじゃ。」 男はその慈悲深い言葉に涙を流した。 「もう諦めてもよいぞ。 そなたの尊き行いは天に召されるに十分な行いじゃて、わしが直々に天界まで送り届けよう・・・」 男は感激した。 「何とありがたいお言葉・・!・・・神よ、今までの愚行をお許しください。 喜んでお供させていただきます!」 そう叫ぶと、男は思い切って手を離した。 だが期待とは裏腹に、男の体は崖の下へと真っ逆さまに落ちて行った。 「な、何と!やはり神とはそういう存在だったのか!! 最後まで私を救うおつもりはないというのですか!! 神よ・・!」 地面に叩きつけられた男は空を見上げる格好で息絶えようとしていた。 そして男が最後に見たものは、神に連れられて天界へと昇っていく草だった。