大人になったら使わないのに、なぜ私たちは「分数」を学ぶのか

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なぜ「分数の足し算」を学ぶの? ITmedia ビジネスオンライン  いきなりで申し訳ないが、分数の計算をしていただきたい。5分の3+3分の1は?【拡大画像や他の画像】 「な、なんだよ。バカにしやがって。答えは15分の14だろ」と思われたかもしれない。正解である。では、次の質問。なぜ、私たちは「分数の足し算」を学ぶのか? 「えっ、ちょ、ちょっと待ってくれ。えーと、うーん……」と困ったかもしれない。ザ・文系の記者もそうである。オフィスで隣の席に座っているK譲にも聞いたところ、同じようにオロオロしていた。ちなみに、彼女は偏差値70の文系大学を卒業している。優秀なのである。それでも、質問に答えることができなかったのだ。 数学を苦手にする人の多くは、このようなことを考えたことがあるはず。「微分・積分なんて、二次関数なんて、日常生活に役立たないよ」と。そして、いまこのように感じているかもしれない。「分数の計算も、社会人になったら使わないよ」と。本当にそうなのか。かつて、分数は小学4年生で習っていたが、いまは2年生で学ぶ。2年生の子どもに「分数って、大人になったら役立つの?」と聞かれて、あなたはどのように答えるのか? 少し前のワタクシだったら「ゴニョゴニョゴニョ」と誤魔化していたが、いまは違う。胸を張って、堂々と、大声で回答できるのだ。なぜか。「大人のための数学教室 和(なごみ)」を運営する堀口智之社長に、納得いくまで話を聞いてきたからだ。 大人のための数学教室は開校以来、生徒数がじわじわと増え続け、現在は約400人が通っているという。普段、統計学などの難問に対応している堀口先生は「分数の計算を学ぶ理由」について、どのように答えたのか。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。数学は物事を抽象化している土肥: 学生時代に数学を苦手にしていた人って、社会人になっても「微分・積分なんて仕事で使わないよ」「二次関数って、一度も使ったことがないよ」と思っている人が多いのではないでしょうか。「微分・積分も二次関数もいらない。社会人になっても必要なのは、足し算、引き算、掛け算、割り算だけでいい」と考えている人が多いのかもしれない。いや、ひょっとしたら、微分・積分、二次関数をどのように使えばいいのかよく分からないので、「必要なのは、足し算、引き算、掛け算、割り算だけでいい」と自分に言い聞かせているのかもしれません。 ま、エラソーなことを言いながら、文系人間のワタクシも社会人になって「微分・積分、二次関数」なんて使ったことがない(と思う)。いや、正直に言うと、小学2年生で学ぶ「分数」も怪しいんですよ。5人家族がピザをわけるときに、「いまは3人しかいないから、じゃあ3等分しようね」というシーンがある。その場合、5分の3という数字が出てくる。ここまでは分かるのですが、分数の足し算になると、とたんに説明ができません。例えば、5分の3+3分の1は? とか。もちろん、計算はできるのですが、「分数の足し算って社会人になって必要か?」と聞かれると、答えることができないんですよ。 そこで、堀口先生にズバリお聞きしたい。分数の計算って、何のために学んでいるのでしょうか?堀口: 数学や算数の役割とは何か。たくさんあるのですが、そのひとつに物事をより抽象化している役割があるんですよね。土肥: 物事を抽象化している? いきなり、つまづきました。どういう意味でしょうか?堀口: 例えば、リンゴが2個あるとします。この場合、どのように数えますか?土肥: 2個ですよね。堀口: でも、本当に2個と言えるのでしょうか。よーく見ると、そのリンゴは形がそれぞれ違うかもしれません。1つは、キズが入っている。もう1つは、へこんでいる。そうした場合でも、同じ1個と言えるのでしょうか? リンゴは1個あるよね、そしてもう1個あるよね。片方のリンゴは大きい、もう片方は少し小さい。でも、同じ1個として数える。とりあえず大きさ、形も違うけれど同じ1個なんですよね。そして、合わせて2個と呼ぼうね、というのが数学の役割なんです。現実にはさまざまな情報が詰まっているのに、特定の情報を抜き出しているのが数学なんですよ。土肥: 数学で「このリンゴとあのリンゴは違う」なんて考えたことがないですよ。うーん、まだしっくりこないですが、確かにさまざまな情報をそぎ落としていますね。いまは数学の話ですよね。算数はどうなのでしょうか?数の感覚を身につける堀口: 数学に比べて、算数はより現実に近いんです。疑問に感じられている分数についても、現実に近いですね。土肥: え、それは違うのでは。例えば、5分の3+3分の1は? という計算なんて、大人になって一度も使ったことがありません。そもそも、5分の3と3分の1を足すことの意味すら分かりません。堀口: 分数の足し算は社会人になってから一度も使ったことがないということですが、その前に大切な話が抜け落ちているんですよね。そもそも私たちは何のために数学や算数を学ぶのか。土肥: そう、そこなんですよ。繰り返しになりますが、「足し算、引き算、掛け算、割り算だけで十分。生きていける」と思っている人が多いはず。堀口: なぜ私たちが算数を学ぶかというと、「数の感覚を身につける」ためなんです。5分の3って、どのくらいかな。3分の1って、どのくらいかな。どちらが大きいのかを考えなければいけません。「5分の3のほうが大きい」ことはすぐに分かりますよね。では、会社の売り上げは5分の3になりました。何%ダウンですか? と聞かれたらどうしますか?土肥: ひえっ、えーと、えーと。堀口: いきなり聞かれると、すぐに答えるのは難しいですよね。答えは、40%。ここで私が言いたいことは何か。世の中というのは「割合」で考えなければいけないことが多いんです。土肥: 割合で考える? どういう意味ですか?堀口: 人間って常に、何かと何かを「比べて」生活しているんですよね。例えば、2個のリンゴがあって、1つは大きい、もう1つは小さい。あなたは兄で、弟が近くにいる。こうしたとき、あなたはどちらを取りますか? お腹が空いている、お腹いっぱい食べたい、ということであれば、大きいリンゴを取ろうとしますよね。ここで何をしているかというと、2個のリンゴを比べているんですよね。土肥: ふむ、ふむ。モヤモヤが晴れてきたような堀口: では、比べるということはどういうことか。A社の売り上げは100億円。分数を学んでいない小学生は、この数字を見て「スゴーい」と思うかもしれませんが、実感することは難しい。一方の大人はどうか。A社の売り上げが100億円と聞いて、子どもと同じように「スゴーい」と思うかもしれませんが、それだけでは終わりません。どのくらいスゴいのかという話になる。対前年比でどのくらい伸びたのか、競合他社と比べてどのくらいの差があるのか、といったことを知ったうえで、A社の100億円がどのくらいすごいのかを判断するんです。土肥: あ、なんとなく分かってきたような。堀口: 分数を習っていない小学生は「売り上げ100億円=スゴい」「売り上げ100億円=よく分からない」といった反応しかできませんが、分数を習っている大人は「売り上げ100億円=どのくらいスゴいのか比べる」んですよね。つまり、人というのは絶対的な評価をせずに、相対的に評価する。そのためには、分数が必要になってくるんですよ。 もう少し、分数の話をしますね。A社の売り上げは100億円。対前年比で20%減というのは、5分の1という意味ですよね。会社の売り上げが5分の1減少した。これを聞いた従業員は「ヤバイぞ」と思う。でも、分数を理解していないとどのくらいヤバイのかよく分からない。5分の1下がると、残りは5分の4になることを理解しなければいけません。土肥: 会社の売り上げが20%減少した、という言い方もできますし、5分の1減少したという言い方もできる。数字の感覚を身につけることが大切なわけですね。堀口: はい。では、なぜ分数の足し算を学ぶのか。例えば、5分の3+3分の1は15分の14ですよね。「1」という数字に対して、どのくらい近いのか。あるいは遠いのか。この感覚を身につけるために、分数を学ぶ必要があるんですよね。土肥: モヤモヤした霧が少し晴れてきたような。人間は「形式」から覚える堀口: 数学・算数に限らず、人間ってどうやってものごとを習得すると思いますか。例えば、赤ちゃんはテーブルの上に置いてあるコップが気になって、さわろうとする。しかし、うまくつかめないので、床に落としてしまう。コップの中の水が床にこぼれてしまう。それを見ていたお母さんは、怒りますよね。「なにをやっているの? ダメじゃない」と。この赤ちゃんの行動は何を意味するのか。人間は「意味」から覚えるのではなく、「形式」から覚えるんですよね。土肥: 形式?堀口: お母さんから「床に水がこぼれるといけないから、コップを触ってはいけない」と注意されても、赤ちゃんは分かりません。まずコップが何かすら分かりません。コップを動かすということが何を意味するのかも分かりません。水がこぼれることの意味や、こぼれることによって何が起きるのかが分からない。だから、コップや水をこぼすことで「これはやってはいけない」と学んでいくんですよね。 このことを分数に当てはめるとどうか。子どもたちに、分数の「意味」を伝えても理解することが難しいんですよね。だから、まずは「形式」的なことを教える。つまり、仕組みやルールをトレーニングすることで、5分の3はどのくらいのものなのか、3分の1はどのくらいのものなのか、といった感覚を身につけることができるんですよね。土肥: なるほど。堀口: では、ここで問題。5分の3、7分の4、9分の5……このうち、どれが一番大きいですか? パッと見て、答えてください。土肥: えとえとえと……。堀口: 簡単そうに見えるのですが、実はこの問題は難しいんですよ。大学で数学科を卒業していても、すぐに答えることができる人は少ないはず。なぜすぐに答えられないかというと、数字の感覚が身についていないから。私たちは小学生のころから数字の感覚を鍛えてきたはずなのに、「十分に鍛えた」と言える人は少ないんです。 では、数字の感覚がある人はどのように考えるのか。5分の2.5+0.5 7分の3.5+0.5 9分の4.5+0.5 と考える人が多いのではないでしょうか。土肥: すべて、5分の半分、7分の半分、9分の半分にして0.5を足していますよね。堀口: はい。ということは、5分の0.5 、7分の0.5、9分の0.5を比べればいんですよね。土肥: 5分の0.5が一番大きい!堀口: 正解。こうしたトレーニングを積むことで、5分の3は15分の9と同じなんだな、3分の1は18分の6と同じなんだな、と理解できるようになるんですよね。先ほど数学は物事を抽象化している……といった話をしましたが、このような考え方をケーキでやろうとすると難しいですよね。小さなホールケーキを15等分するとグチャグチャになってしまうので、数学・算数の世界では抽象化しているんです。「比べる」ことを鍛える土肥: 子どもに「なぜ、分数を勉強する必要があるの?」と聞かれたら、このように答えたらいいんですね。数字の感覚を身につけて「比べる」ことを鍛えているんだよと。堀口: はい。人類は「比べる」ことで進化してきたのではないでしょうか。2個のリンゴがあって、1つは大きい、もう1つは小さい。まず、どちらが大きいのかを定量的に比べようとする。自分や自分の仲間がより戦略的に“得”をしようとするので、大きいリンゴを選択する。そして、大きいリンゴを手にして食べ続けることができる仕組みをつくるんですよ。さらに、自分だけでなく皆が満足する量のリンゴを分配する。このような仕組みをつくってきたことで、人類は生き延びてきたと言えるのかもしれません。土肥: ふ、ふ、深いですねえ。堀口: 数学は社会の問題を解決するために、役立つ道具なんです。例えば、列車に乗ると、2分ごとに発着する路線もあれば、15分ごとの路線もある。2分待つのに慣れてしまった人が、15分待てと言われると、「遅いなあ」と感じますよね。でも、そこにも数学的なロジックがあるんですよ。土肥: どういう意味でしょうか?堀口: 列車をどの時間帯に、どのくらいの本数を走らせたらいいのか。その街に住む人口、労働人口、年齢分布、他駅間との距離、過去の利用者数などあらゆる統計量を駆使して、乗客の待ち時間や乗車率を最小化するように発着量を調整しているはず。 例えば、朝のラッシュ時は1〜2分ごとに列車がスムーズに発着するようなシステムを組んでいると思うんですよ。それだけではありません。遅延が発生したとき、他の列車にどのような配慮をしたらいいのか。1分遅れた場合、10分遅れた場合、30分遅れた場合にも、統計や最適化といった数学を使って対応しているはず。 話はまだ終わりません。遅延は、1日平均で何回発生して、それによってどのくらいの経済損失が発生しているのか。こうした想定し得るリスクはすべて数字化しているのではないでしょうか。 よく駆け込み乗車によって発車が30秒ほど遅れることがありますよね。駆け込んだ人にとっては“お得”かもしれませんが、実は大きな経済損失を生んでいると思うんです。その列車に1000人が乗っていれば、その人たちの行動を30秒遅らせているわけですから。列車に乗っているときも、このようなことを考えています(笑)。土肥: 数学に詳しい人は、街の中を歩いていても「数字が気になって気になって」といった生活になりそうですね。文系人間のワタシは久しぶりに数学を勉強したので、明日“熱”が出そうです。本日はありがとうございました。――翌日、熱は出ませんでした。考えてみると、難しい問題は解いていませんでした。(終わり)

(出典 news.nicovideo.jp)


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