転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1560780339/ 1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/17(月) 23:05:39.47 ID:BC2DGCvz0 これは、日本一慈(やさ)しい鬼退治。 その合間で日常のひと時を過ごす、炭治郎たちの小さな話。 【キャラ名】 >>3 3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/17(月) 23:22:17.58 ID:fe1iOedzo カナヲ 4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/17(月) 23:35:05.22 ID:BC2DGCvz0 心の糸が切れた日を、ぼんやりと覚えている。 惨たらしような空色の青が自分の頭上に浮かんでいた。 ぼんやりと流れゆく雲を眺めながら、ふっと頬を撫でる緩い風がそよいでくる。 ひもじい、かなしい、さびしい、くるしい。 つらい、つらい、つらい、つらい。 そういう気持ちを私を横切る風に全て乗せてみた。 すると、不思議とつらくなくなった。 なにもかも、つらくなくなった。 全てを落としてしまった。 そんな気がした。 5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/17(月) 23:46:24.81 ID:BC2DGCvz0 お腹の足しにもならないような端銭で売り払われても、かなしくなかった。 それから見知らぬ土地へ流されるために、 きつく縛られた胸の縄をぐいぐいと引かれて 波止場へと歩みを薦める。 その途中で水面に自分の顔が映り込んだ。 髪はボサボサ、頬は落ちくぼみ、黒ずんだ垢が体全体に浸透している。 鳥が飛び去った影響で波紋が広がり、醜く歪んだように虚の鏡面が出来上がる。 波紋が治まると水の奥にいる私と目が合った。 少し大きい瞳の底は、先ほどよりも虚を感じる。 不安、痛覚、そういった情動が機能していないから ただ呼吸をするだけの肉の塊がそこにいた。 死ぬ事すらも、生きる事すらも、全てすべてが虚の中。 ただ漫然と、漠然と歩みを進めていると。 ふと、声が聞こえる。 「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」 6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 00:02:24.76 ID:yR7JbxaC0 むくり、と目を覚ます。 何やら懐かしい夢を見ていたような気がした。 鮮明に思い出せる内容ではない事から、きっと昔の夢でも見たのだろう。 私にとって振り返る事ができる記憶というのは、二人の姉が出来た時から。 二人が作ってくれた、“栗花落カナヲ”という私が出来てから。 きっと、姉さんたちと出会った頃の夢だったのか。 覚えていない事柄に想いを馳せる事をやめて、少し背伸びをしながら改めて意識を覚醒させてゆく。 今日は任務や業務も特にはない。 先日まで屋敷で療養していた炭治郎たちも、機能回復訓練を終えて次の任務に向かったようだ。 本来はもう少し治療に時間がかかる、という見立てだったが あの三人は予想以上の回復の早さを見せてくれた、というのはしのぶ姉さんの言葉。 となると、今日は一日何もすることが無くなってしまった。 鍛錬をこなすか。それとも次の任務の諜報にあたるか。二者択一。 隊服に着替え、いつものようにコインを投げようとして、ふと一人の男の子の顔を思い出す。 竈門炭治郎。 彼が屋敷を出る前に、私に伝えた言葉。 振り返ったときのあの笑顔。 私は無意識に、コインを胸に抱いて握りしめる。何かを確かめるように。 続きを読む