転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1558963975/ 1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/27(月) 22:32:55.02 ID:hLTkM85AO 「おいてかないでぇぇええええっ!!!!」 アビスの深層に悲痛な叫びが響き渡る。 「リコォォォォォォオオオオオッ!!!!」 まだ声変わりもしていない、澄んだ声音。 彼は必死に少女の名を呼ぶが、返事はない。 少年の大切な宝物は沈黙したまま、動かない。 「うわぁあああああああああああん……!」 一緒にいこうと約束したのに。 リコは独り、先に行ってしまった。 取り残された自分は、独りぼっち。 寂しくて、悲しくて、怖くて。 「うわああああああああああああん!!!!」 広大な地下空間を震わせる、慟哭。 その嘆きがあまりにも、不憫で。 ポロポロと大粒の涙を流す少年が、可哀想で。 「……そいつ、まだいってないぜ?」 つい、声をかけてしまうのは、己の弱さか。 それとも、その身に残る人間性によるものか。 ナナチには、その感情すらも、罪に思えた。 2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/27(月) 22:35:09.51 ID:hLTkM85AO 「き、君は、誰だ……?」 「オイラはナナチ。成れ果てさ」 簡潔すぎる自己紹介。 しかし、それ以上でも以下でもない。 それに、事は一刻を争う。 「あー……こりゃひでぇ」 横たわる少女の真っ青な顔色。 目は固く閉じられていて、意識はない。 何より、パンパンに膨れた腹部が、痛ましい。 「お、お願いだ、リコを助けてくれ!」 「わ、わかったから、くっつくなよぅ」 縋りつく少年を押しやってから。 とりあえず、場所を変える必要があると判断。 少年に向けて、肉体労働の指示を出す。 「その子を助けたかったら、オイラのアジトまで運びな。信用出来ないって言うなら……」 「わかった! リコを運べばいいんだな!?」 少年は疑うことなく、少女を背負う。 その素直さに、半ば呆れながらも。 ナナチは自分の住処に、彼らを案内した。 3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/27(月) 22:36:20.58 ID:hLTkM85AO 「そこに寝かせな」 「ああ、わかった」 ナナチのベッドに、少女を寝かせた。 すぐ隣に、座り込み、彼女の手を握る少年。 そんな彼に、処置の前にいくつか質問をする。 「どうしてこうなったか心当たりはあるか?」 「リコは、その……拾い食いする癖があって」 「ははぁん。なるほどなぁ」 1発でビンゴだ。 ナナチをニヤリと口の端を曲げた。 その表情は、少しばかり意地悪に見えた。 ここでようやく少年はナナチについて尋ねた。 「君は何者なんだ?」 「だから、ナナチだってば」 「成り果てとは、どういう意味だ?」 「見ての通りさ」 ナナチは、成り果て。 元は人間で、今は違う。 アビスの呪いによって、変質した。 「まあ、喋るぬいぐるみだと思ってくれ」 今のナナチは。 まるでふわふわした、ぬいぐるみのような。 元人間だった。 続きを読む