転載元 : http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1379976255/ 1: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/24(火) 07:44:15 ID:RZ/cAKPA 年も押し詰まった師走の末、足先に冷たい隙間風を感じて目を覚ますと、窓から覗くまだ暗い空には傾いたオリオン座が見えた。 二度寝しようかと思ったが、起き上がって肩掛けを被り、暖炉に火をおこした。 肘掛け椅子に腰を下ろし、ぱちぱちと言う音と共に燃える火を眺める。あたたかさを顔に感じながら、常に形を変え続ける炎を見ていると、ふと昔のことを思い出した。 目を瞑り、記憶の糸を辿り始めた―― ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/24(火) 07:44:55 ID:RZ/cAKPA そのときオレは十五か十六だったろうか。どちらにせよ年齢はこの物語にさして大事な役を務めてはいない。読者は唯、十代半ばの少年とも青年ともつかない未熟なジャン・キルシュタインを思い浮かべればいい。 前回の壁外調査終了後、ちょっとした配置換えがあった。亡くなった先輩方には不謹慎だが、オレはミカサと同じ班になれないだろうかと期待した。 理由は分からないが、人生何故かそう上手くいかないもので、彼女とは班はおろか分隊すら違かった。 3: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/24(火) 07:45:35 ID:RZ/cAKPA その代りに同じ班になった奴が、芋女ことサシャ・ブラウスだった。 同期とは言えコイツとは余り話したこともなかったし、同じ班員として飯を食ってる折にも隙あらばオレの皿を狙ってくるので鬱陶しく感じた。 一度などは、パンを丸々奪われたこともある。 「獲物を奪うのに作法が必要ですか?」 これが奴の理論らしいが、食が好きならば最低限のテーブルマナーくらいは身に着けて欲しかった。 4: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/24(火) 07:46:22 ID:RZ/cAKPA とは言っても同期、同年代ということで一緒に行動する機会は増えた。立体起動装置の整備をしたり、買い物に付き合わされたり、食事に行ったりなど。そこでオレはそれを利用して、コイツを教育しようと思い立った。 まず何よりもオレの胃の為に食礼を叩き込んだ。最初は嫌がったが、旨い飯をたらふく食えると言ったら簡単に釣れた。 「違う、こう持て、こう」 奇怪な持ち方をしている手をとって教える。少し自分より細く、あたたかい指。 「でも、持ちにくいですよーこれ」 「うるせえ、食べたきゃ覚えろ」 電球色を基調としたシックな照明に、耳に心地よいジャズが流れるレストランの中、拙いナイフ使いでとても旨そうに食べる芋女を何だか不思議な気分で眺めた。 続きを読む