転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1550755557/ 1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/21(木) 22:25:58.44 ID:GHbflzSB0 「ドク! 開けてくれ、ドク!」 マーティ・マクフライは焦っていた。 ひょんなことから、タイムスリップをして。 30年前のこの時代へと、迷い込んでしまった。 それに伴って、様々な出来事が彼を襲った。 「頼むよ、ドク! ドアを開けてくれ!」 若かりし日の両親と出会い、父親を追跡して。 父親の代わりに車に轢かれ母親に介抱された。 しかし、そんなことはこの際、どうでもいい。 母親にカルバン・クラインの下着を見られた。 それが藤色だったことすらどうでも良かった。 「開けてくれないと、僕は酷いことになる!」 何度も扉を叩きながら、マーティは懇願する。 今にも泣きそうな声で、開けてくれと叫んだ。 ダウンベストを着ていることもあり、まるで海で遭難して流れ着いた、漂流者のような有様。 しかし、彼が今現在、直面している問題は、大海原を漂うよりも辛く、切実な難題だった。 「頼むから……トイレを貸してくれ!」 一際大きな波が押し寄せる。極めてヘビーだ。 このままでは漏れてしまう。もちろん大の方。 もうダメだとマーティが諦めかけた、その時。 「君は沿岸警備隊の隊員だな?」 ドクター・エメット・ブラウンが扉を開けた。 2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/21(木) 22:27:38.70 ID:GHbflzSB0 「ふぅ……助かったよ、ドク」 「君は私に寄付を求めているな? 他を当たれ」 トイレを借りた後、おかしなことを言われた。 エメット・ブラウン博士は勘違いをしている。 マーティを沿岸警備隊員だと、誤解していた。 こめかみに絆創膏を貼る彼は、科学者であり。 どうやら人の思考を読む装置を開発中らしい。 それが失敗作であることは、言うまでもない。 「僕は未来から来たんだよ、ドク」 「なんと……君に、その意味がわかるか?」 正体を告げると、ドクはわなわなと震えて。 「つまり、この発明は失敗作ということだ!」 開発中の思考を読む装置を、尻から引き抜く。 ドクの尻から生えたそれは、ヘビーだった。 ヘビーなデザインに、呆気に取られていると。 「おやすみ、未来人くん! 良い夢を!」 ドクは納屋みたいな建物の中に引きこもった。 どうやら失敗したことがショックだった様子。 しかしマーティはドクの大発明を知っている。 それに乗って、この時代へとやってきたのだ。 「待ってよ、ドク! 話を聞いてくれよ!」 返事はない。彼は悩み、そして、思い出した。 3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/21(木) 22:28:58.46 ID:GHbflzSB0 「その、おでこの傷のこと、知ってるよ!」 タイムスリップ直前に聞いた話題を持ち出す。 「トイレの電球を取り替えようとして、滑って転んだんだ! そして閃いたんだ! 次元転移装置のアイデアを、その時、閃いたんだろう!?」 ドクに聞こえているかは、わからない。 それでも、この時代で頼れるのは彼だけだ。 マーティだけでは、トイレすらままならない。 再び便意に苛まれた際、彼が居なければ困る。 だからマーティは藁にもすがる思いで頼った。 「今、なんと言った……?」 納屋の扉が小さく開き、ドクが顔を覗かせた。 どうやら、興味を惹くことに成功したらしい。 当たり前だ。彼にとっては、今日の出来事だ。 マーティは、ここぞとばかりに、勝負に出た。 「百聞は一見にしかずって、よく言うだろ?」 実際に、タイムマシンを、見せることにした。 4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/21(木) 22:30:33.24 ID:GHbflzSB0 「これが、【フハックス・キャパシター】さ」 デロリアンのアクセサリーをONにすると。 タイムマシンの心臓部に、電気が通った。 この装置によって、次元転移が可能となる。 「……な、なんと! 実現するとは……!」 まるで、雷にでも打たれたように震えるドク。 その手には、次元転移装置の設計図があった。 今日の閃きが、形となって、実体化したのだ。 彼は驚愕と歓喜と達成感に満ち溢れた表情で。 「私は今日、トイレの電球を交換しようとして滑って転び、額を便座にしたたかに打ち付け、その衝撃で糞を漏らした際に、見えたのだ!」 「えっ? ドク、糞を漏らしたのかい?」 「ハッキリと見えた! この装置の仕組みが!」 糞を漏らしたことは、知らなかったけれども。 「私はついに、機能する物を発明したのだ!」 「大発明だよ、ドク」 「こうしちゃいられん! 君を未来に帰さねば」 悲願の達成を喜ぶ暇など、彼らにはなかった。 続きを読む