転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1550663322/ 1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/20(水) 20:48:42.63 ID:vutjDZzWo 青春をアイドルに捧げた輝かしき80年代の思い出は、墓場まで大切にとっておこうと決めていた。 2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/20(水) 20:52:14.11 ID:vutjDZzWo 高校時代はアイドルたちと共に生きたと言って差し支えなかろう。 金などなく、レコードを買い集めたりコンサートを頻繁に見に行くなど満足に叶いはしなかったものの、 新聞のテレビ欄を毎日穴の開くまでチェックを重ね、彼女らが出演する番組は全てビデオテープに記録し、ラジオもことごとくカセットに録音してあった。 テレビで見る彼女らはまことに凜々しく、麗しく、見ている間は息も止まった。 歌声は儚く、美しく、聴いている間は時間を忘れることができた。 写真集が出るとなれば、発売日の放課後に本屋へ走り、同じ趣味の友人たちと金を出し合い、公園で隅々まで眺めた。 暗くなれば街灯の下に移って尚も読み続けた。帰りが遅くなって親に叱られても気に留めなかった。 誰の家に保管するかで言い争いもした。 私の実家は狭く隠し場所がなかったので、いつも保管場所になる金持ちの友人が心底恨めしかった。 見かねた友人が、付録のポスターだけを私にくれたりもした。 笑ったままの彼女たちはいつ見ても、現実にこんな女の子が本当にいるのかと、信じられない気持ちにさせてくれた。 天井を眺めるたび彼女らに会える気がして、狭くて散らかった自宅も居心地がとても良かった。 周りからはろくに恋人もできない寂しい青春に映ったかも知れないが、 それでも私の人生は彼女たちのおかげで輝いていた。 3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/20(水) 20:53:44.12 ID:vutjDZzWo 大学に入って多少金の融通が利くようになると、私はアルバイトで稼いだ金をほとんどコンサートの遠征費に費やした。 地方でのコンサートに行くと、現地での出会いというのも自然と増える。 何度も同じ場所で出くわせば、そのつもりがなくともお互いを認識し、やがて同志の盃を交わすようになるものだ。 年齢も本名も知らぬ間柄だが、同じ少女を追いかけるもの同士の結束は固く、 いずれその仲間はどんどんと増えていった。 普段は滅多に会えぬその同志たちとは、文通や電話でアイドルたちの活躍について何度も語り合った。 私の生活はますますアイドル一色だった。 オタクだと言われても否定はしない、認めよう。 それでも私なりの、輝かしい80年代の思い出だ。 そんな気持ちは、いつの間に忘れてしまったのだろう。 大学を出て、会社勤めを始め、より金が貯まった頃には時間がなくなり、日々の仕事に追われてだんだんと熱は冷めていった。 毎回遠征していた地方のコンサートも一回おき、半年おき、一年おきと、少しずつ足が遠のいていってしまった。 当然、地方の同志たちとの交流も日に日になくなっていく。 のちの妻と出会い、結婚し、娘が産まれ……生活がどんどん私の中で大きくなっていき、気がつけば昔の趣味の記憶は彼方に置き去りにしてしまっていた。 それに合わせるかのように、かつて私が熱狂的なまでにその姿を追い続けていたアイドルたちはいつの間にかステージを降り、 ミュージシャンに転身するもの、芸能界でタレントとしてのセカンドキャリアを積むもの、引退して普通の生活を送るもの、 時には十数年ぶりにTVに出たかと思えばワイドショーでのスキャンダルだったりと、 その姿も時を経てすっかり変わり果ててしまった。 私の愛したアイドルは、私が流行から離れた隙に消え去ってしまったのだ。 続きを読む