転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1563086937/ 1: ◆jEbRvHU8C2 2019/07/14(日) 15:48:58.12 ID:UfnhAP/w0 シンデレラガールズのSSになります 少し刺激の強いシーンがあります 2: ◆jEbRvHU8C2 2019/07/14(日) 15:50:40.36 ID:UfnhAP/w0 人生を1冊の本に例えるのは使い古された表現ではありますが、 つまり生きることは執筆活動にも似ている、 と続けたのはどの作家でしたでしょうか。 ふと、そんなことへ想いを馳せます。 生きることが執筆活動なのであれば、ヒトの身体そのものは本の装丁に過ぎず、 書き連ねる本文こそ人生であり、きっとそれこそ重視されるべきなのでしょう。 そして、同時に考えてしまうのです。 本の喜びは手に取って読んで貰えることだ、というのが通説ですが、 それであれば、表紙に著者として鷺沢文香と名を綴る本は、果たして。 完成後に、時代を超えて数々の読者に見て貰えるのが、幸せなのでしょうか。 それとも。 執筆を導く編集と称すべき存在ただ1人に見て貰えることこそが、幸せなのでしょうか、と。 3: ◆jEbRvHU8C2 2019/07/14(日) 15:51:06.78 ID:UfnhAP/w0 その日、私にひとつのお仕事が入りました。 とは言っても、いちアイドルに対してではなく、古書店の店主からの雑用と言いますか、 要は叔父さんのお店のお手伝いです。 アイドルになる前は、…いえ、アイドルとしてデビューしてからも、 何かとお世話になっている叔父さんですから、断る理由はありません。 加えて言えば、そのお仕事は『叔父さんが所有する物置から本を運び出すコト』でした。 単純な力仕事だけでなく、踏み台を用いての高所作業も必要になってくるものです。 運動神経のよろしくない私ですが、それでも歳を召した叔父さんよりは動ける自負があり、 ゆえに叔父さんにさせてしまうわけにはいかないお仕事。 幸いにも急ぎではないとのことで、それならば次のオフの日にでもと考えながら、 プロデューサーさんに念のためのスケジュール確認を行いました。 そうして。 オフに何かあるのかと尋ねられ、正直に答えたところ、 偶然にも同じ日にオフだったプロデューサーさんも、私と同行する運びとなったのです。 4: ◆jEbRvHU8C2 2019/07/14(日) 15:51:35.86 ID:UfnhAP/w0 当日。 運転するプロデューサーさんのお隣、助手席にて私が道案内しながらの道中です。 何度か通うことのあった道ですが、基本的に徒歩か自転車での移動でしたので、 助手席からという景色は新鮮なものでした。 ただ、私がこうしてほんの少しの戸惑いと興奮を覚えてしまうのは、 助手席からの眺めという初めての景色が原因だけでは、きっとありません。 プロデューサーさんがハンドルを切ると、車体は左へと曲がり、 あとは直進するだけ、という区間に入りました。 私はそれを伝えながら、なるべくさりげなく、運転席の方へと顔を向けます。 特筆すべき存在が、しかし特筆することもなく、 普段の通りに前を向いてハンドルを握っています。 ただ、それだけ。 隣り合わせで居られるそれだけのことを、心の内で喜んでしまい、 …頬が緩んでしまう前に、私も彼と同じく視線を進行方向へと戻しました。 5: ◆jEbRvHU8C2 2019/07/14(日) 15:52:03.86 ID:UfnhAP/w0 アイドルとそのプロデューサーという関係でありながら、 それとは別の感情を抱いてしまうこと。 それすなわち、応援してくださるファンの方々も、 直接のスカウトをしてくれたプロデューサーさんをも、裏切ってしまうことになる。 充分に理解しています。 …している、つもりです。 ゆえに、こうして必要以上に進んでしまう前に、 そう、開いた本をぱたんと閉じてしまうようにして、何事もなかった風を装うのです。 彼を裏切ることも、…そのせいで嫌われてしまうことも、 きっと私には耐えられそうにありません。 もし本当に裏切るつもりなら、 御洒落なストールひとつでも引っ提げて着飾った姿を見せるものだ、 などと誰ともなしに予防線を張って弁明を考えていると、ちょうど目的地が見えてきました。 続きを読む