【モバマス】 木村夏樹「道とん堀には人生がある」

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転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1563122883/

1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/15(月) 01:48:03.58 ID:GuzBXgUxO

 [過去作]

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3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/15(月) 01:55:18.98 ID:GuzBXgUxO

※独自設定あり。今回も地の文です。そして毎度ながら冗長です、ご了承下さい。


4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/15(月) 02:00:55.67 ID:GuzBXgUxO


「プロデューサーさん、ちょっと相談があるんだけどさ――」


 とある芸能事務所、そこに所属する一人のアイドル――木村夏樹は、彼女を担当するプロデューサーへ遠慮がちに切り出した。


 ロックなアイドルを信条・コンセプトとし今を駆け抜ける夏樹。
 純粋、清廉、無垢で可愛らしい……そのような従来のアイドルイメージとは対極にある彼女であるが、そんな形にとらわれない「かっこいいアイドル」は社会に鮮烈な印象を刻み込み、今や男性はもとより、同性である女性からの支持も厚い。


 前髪をたくし上げ、いわゆるリーゼントのような髪型をしていることも相まって、夏樹というアイドルは今や若者の憧れであり、一種のアイコンになっている。


 そんな彼女であるが、いつもの明朗快活な性格は鳴りを潜め、何やら葛藤の中にいるような面持ちであった。


「……相談? どうした?」


 初夏の太陽は眩しく、高い空には雲ひとつない。事務所のクーラーが冷気を吐き出す音、それだけが響いている。


「スケジュールのことで相談があってさ」
「何だ、そんなことか」


 いつもらしくない夏樹を見て、何を切り出されるのか――そのように身構えていたプロデューサーであったが、何気ない相談であったことに安堵のため息を漏らす。


「……スケジュールか。休みが欲しいとか?」


 地道な下積みを経てアイドルとしてデビューし、デビュー間もなく注目を集め忙しい日々を送ってきた数年間。駆け足のように過ぎる目まぐるしい時間はようやく落ち着き、これからの戦略を再構築する時期に入っていた。


 プロデューサーにとってはこれまでの労をねぎらう意味も込めて、スケジュールに余裕を持たせようと思っていたところであった。


「いや、その逆っていうか……」


 ところが、彼女から返ってきたのはその逆。意表を突かれる。


「……え?」
「いや、もっと仕事を入れて欲しいんだ」

 まさかの提案に呆然とするプロデューサー。
 まさか、俺のやり方に不満があるのでは――彼の脳裏に一抹の不安が過ぎる。






5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/15(月) 02:06:22.73 ID:VQj+6fZHO

「夏樹……、もし俺のやり方に不満があったら言ってくれ」


 プロデューサーとしては夏樹というアイドルを売り出す為に、彼女と共に誠心誠意で実直に取り組んできたつもりであった。プロデューサーとアイドルという関係ではあるが、単なるビジネスライクな関係ではなく戦友のような絆をお互いに築いてきたと感じていたのである。


 そんな中での夏樹の発言は、彼の心に不安の影を落とす。


「あー、いや……! 不満とかあるわけじゃないんだ! プロデューサーさんには感謝してもしきれないと思ってるし……」


 しかし、どうやらプロデューサーに不満があるわけではないらしい。
 彼女は自身が持ち得る最大限の表現をもって全力でそれを否定した。


「じゃあ、どういうことなんだ……?」
「それは……」


 歯切りは悪く、口ごもる夏樹。


「お前は今まで本当によくやってくれたし、一旦落ち着いて方向性を練り直そうと思ってたから……。もしかして、それはいらんお節介だったか?」
「いや、それについても異論はないよ。アタシもそう思ってた。道がないと車は走れない――」
「じゃあ……」

 そこまで言って、今度はプロデューサーが口ごもる。
 彼女の意図がはっきりしない……。


「来月アタマの土日、今のところフリーだろ?」
「……ああ、そうだな」
「そこに、何でもいいから仕事を入れて欲しいんだ」


 何でもいいから――およそこれまでの夏樹らしくない、そんな言葉であった。
 彼女はプロデューサーの仕事についてもよく分かっている。内容は問わないとはいえ、簡単に仕事が取れるわけじゃないし、舞い込んでこないことも熟知しているはずなのだ。
 いつもの彼女なら、彼の苦労を知っている彼女なら、こんなことは決して口にしない。


 それに、来月分のスケジュールも大方のところは既に決まっていたのである……。


「……それは、どうして?」


 その問いに対し、夏樹は俯く。
 本当に、らしくない。


「ほら、いわゆるバーターってやつとかさ……!」
「バーターか……。今のところ出演依頼は来てないし、そもそも誰とバーターさせるんだ?」


 バーター。売れっ子を出演させる代わりに、売り出し中の新人もどこかで起用してもらう、そのような取り引きを表す業界用語であるが、今や一つの地位を確立させつつある彼女には該当しない。
 つまり、夏樹はバーターされる側ではない。プロデューサーの疑問はもっともである。


「お前は、今やバーター出演する人間じゃないし、そのような依頼も今のところはないけど……」
「いや、アタシだってまだまだ新人だし、もっと色んな分野にチャレンジしたいんだ……!  ほら、バラエティ系とかさ!」
「バラエティなら、既にレギュラーポジションの番組もあるし、新しい依頼も受けてるし……」
「他にも、何かあるだろ……?」


 どこか切羽詰まった様子を感じ取るプロデューサー。
 一見すると志が高く仕事熱心なようにも見えるが、今の彼女は、言うなれば明日の生活もままならないその日暮らしのような、そんな焦燥を纏っている。

 共に歩んだ絆が、「これは違う」という警告を彼に告げていた。







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