転載元 : http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1554819540/ 1: ◆Z5wk4/jklI 平成31年 04/09(火)23:19:00 ID:ohA このお話は下記のお話たちの続編に位置しています。 A 【モバマス】十年後もお互いに独身だったら結婚する約束の比奈と(元)P B 【モバマス】佐々木千枝を生贄に捧げる C 【モバマス】あと八ヶ月で結婚する約束の比奈(29)と(元)P D 川島瑞樹(32)は顕現する E 荒木比奈(33)は慟哭する それぞれ、清書版は渋に同名でアップしてあります。 ミスの修正等もしてありますのでお好きな媒体でお楽しみください。 以下のお話は、全5パートで構成しています。 このうち2パート目までは、多少のことに目をつぶればシリーズ未読でもお楽しみいただけるかと思います。 3パート目以降も続けてお読みいただく場合は、 シリーズのうち少なくともA,B,Eはお読みいただいていないと、お楽しみいただけないかと思います。 これまでと多少趣が異なりますので、どうぞご了承ください。 2: ◆Z5wk4/jklI 平成31年 04/09(火)23:21:55 ID:ohA 1.オトナになりたい佐々木千枝 Scene-N2-5+(+9y) (あらすじ:ゲーム時間から九年後。佐々木千枝は二十歳を迎え、国内でトップクラスのアイドルとして活動していた。 佐々木千枝は五年前に活動を終了したブルーナポレオンの当時のプロデューサーに想いを寄せ続けており、櫻井桃華の助けを借りて桃華の邸宅内で千枝と元プロデューサー、二人きりの成人のお祝いをした。 千枝はその席でついにプロデューサーに想いを告げる。しかし九年前「十年後もお互いに独身だったら結婚する」という約束を荒木比奈と交わしていた元プロデューサーは、千枝の想いを断った。) カーテンの間から差し込んでくる朝日の眩しさで、私は目を覚ました。 いつもと景色が違う。ああそうだ、桃華ちゃんの家に泊めてもらったんだった。桃華ちゃんと一緒のベッドで眠って、それで―― 首を動かしてみる。ベッドの上には私しかいなかった。桃華ちゃんはもう起きたんだろうか。 身体を起こす。ほんの少しだけ頭が重かった。体調不良かと思ったけど、すぐに思いなおす。きっと舞い上がっちゃって慣れないお酒を呑んだから、まだ身体に残ってるんだ。 半分くらい眠ったままだった頭がようやく働き出して、昨日起こったことを整理して再生していく。 私が九年間想い続けた、ブルーナポレオン活動当時のプロデューサーさん。二十歳になったらオトナのお酒を教えてもらう、というコドモのころの約束を持ちだして、二人きりでお祝いしてもらって、その場で、想いを伝えて――私の想いは、受け取ってもらえなかった。 はじめから結果がわかっていたことだった。あの人は、同じブルーナポレオンのメンバーだった、荒木比奈さんと想いあっていたから。 残念だけれど、でも勇気を出せてよかった。 悔いはないけれど、まだ昨日の事を思い出すと胸が締め付けられるような気持ちになる。 私はベッドから立ち上がって、ゆっくりと深呼吸した。 きっと私はこれから、昨日のことを何度も思い出す。けれどそれも受け止めて前に進まなきゃ。 3: ◆Z5wk4/jklI 平成31年 04/09(火)23:22:32 ID:ohA 「おはようございます、千枝さん」桃色のドレス姿の桃華ちゃんが部屋に入ってくる。「朝食の準備が出来ていますわ」 「うん、おはよう、桃華ちゃん。昨日はお世話になりました」 私は桃華ちゃんにお礼を言う。 「どういたしまして」桃華ちゃんはスカートをつまんで、優雅に礼をする。「さあ、スープが冷めないうちに……」 「うん、そうなんだけど……」 私は部屋の中を見渡す。 「どうなさいましたの?」 桃華ちゃんは首を傾げた。 「荷物をまとめていたら、見つからないものがあって、探してたの。この部屋の中にあるはずなんだけど……」 「探し物はなんですの?」 桃華ちゃんに問われ、私はこの部屋でなくしたと思われるものの名前を挙げた。 「……おかしいですわね、それなら私も昨日確かに見ましたし、昨日の夜からはメイドがこの部屋に掃除に入ることもなかったはず……探させましょうか?」 「ううん、いいよ」私は首を横に振る。「もう、必要なくなっちゃったから」 「……わかりましたわ。もし見つかったら、連絡するようにしますわ」 「うん」 「では、行きましょう」 私と桃華ちゃんは寝室を出る。出るときに、私はもう一度部屋の方を振り返った。確かに持って入ったはずなのに、どうしてなくなってしまったんだろう。 桃華ちゃんの後ろについて廊下を歩くと、昨日、私が元プロデューサーさんと食事をした部屋の扉が見えてきた。扉は開いていて、通り過ぎるときに部屋の中が見えた。 部屋の中央には何も載っていないテーブル。部屋の奥には、昨日はカーテンをかけたままだった窓から朝日が差し込んでいる。 昨日、あの人が座っていた椅子を見ながら、私はぼんやりと考える。 もしも、私がもっと早く、もっと強くあの人へのアプローチをしていれば、違う未来があったのかな―― 4: ◆Z5wk4/jklI 平成31年 04/09(火)23:23:22 ID:ohA Scene-n4-4+ (+4y) 「瑞樹さん、すごいです! 私も……瑞樹さんみたいな、どんな時でも前を向けるオトナになりたいですっ! ありがとうございました!」 私は感謝の気持ちを込めて頭を下げて、川島瑞樹さんの病室を後にした。 結成から四年を迎えたブルーナポレオンラストライブを前に、瑞樹さんの身に起こった事故。瑞樹さんは足を怪我して、ライブ当日のダンスは絶望的な状態だった。 それでも、瑞樹さんは前を向いていた。瑞樹さんの病室に集まったブルーナポレオンの他の四人のメンバーたちに、瑞樹さんは今の状態でできる新しい演出を提案した。その案に、私は本当に驚かされて、心が躍るような気持だった。 どんなときでも前を向ける瑞樹さんは、すごい。 「千枝ちゃん、どうしたの? 時間がかかってたみたいだったけれど」 先に病室を出ていた松本沙理奈さんが扉の前で私を待ってくれていた。少し離れたところで比奈さんと上条春菜さんが熱っぽくなにかを語り合っている。 きっと、あの二人も瑞樹さんのアイデアで熱が入ったんだろうな。 「プロデューサーと瑞樹さん、二人っきりにしておくのが心配だったとか?」 「ち、ちがいますっ!」 私は思わずムキになってしまって、言ってから頬が熱くなるのを感じた。 「うふふ、冗談冗談!」沙理奈さんは笑って、小首を傾げる。「千枝ちゃん……ずっと憧れてるんだね、プロデューサーに」 沙理奈さんに言われて、私は胸がちくりと痛んだ。 「……でも、プロデューサーさんには、比奈さんが……」 言いながら、恥ずかしさとちょっと惨めな気持ちが混ざって、私は下を向いてしまう。 プロデューサーさんと比奈さんは、あと六年経っても二人とも独身だったら結婚するっていう約束をしていた。 プロデューサーさんと比奈さんは、その約束は内緒のつもりらしいし、お互いに恋人がいないことを冗談めかして笑いあっている。けれどその約束はブルーナポレオン以外の皆にも知れ渡っていたし、 二人が本当は信頼し合っているということは、誰にだって、まだまだオトナになれない私にだってよく分かった。 沙理奈さんの言う通り、私はプロデューサーさんにずっと憧れている。けれど、プロデューサーさんと比奈さんを見ていると、私なんかじゃ敵いっこないかって、気持ちが逃げてしまう。 続きを読む