転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1524043893/ 1: ◆PL.V193blo 2018/04/18(水) 18:31:33.57 ID:hD9nuK1M0 シン撰組ガールズ回を見ていて思いついたお話です。 エロssを書く合間に書いていたらなぜか先に完成してしまいました。 ※注意 地の文多しです 長めです 歴史もの要素があります。 よろしければご覧ください。 長いので数回に分けて投稿します。 2: ◆PL.V193blo 2018/04/18(水) 18:32:19.27 ID:hD9nuK1M0 「――――を、最近ようやく観まして」 「へえ」 思いついたように楓さんが、そんなことを言った。 「Pさんはご覧になりました?」 「公開初日に行きましたよ」 「あら、さすがですね」 「公開前から話題でしたからね。芸能プロデューサーとしてそういうリサーチの手間は惜しみませんよ」 「後悔しないプロデュースを心掛けたいですものね」 「41点ですね」 「えーっ」 まあ、楓さんの話題が思い付きでないほうが少ないのだけど。 そんな子供みたいに膨れたってダメです。 これでも甘い採点ですよ、貴女は30点や20点出すと本気でヘコみますから。 「ラストシーン、逢えないんじゃないかとやきもきしてしまいました」 「ああー……あの監督ならやりかねませんからね」 前々からのあの監督のファンは、きっとあのシーンをヒヤヒヤして観ていたに違いない。 「Pさんは、遠距離恋愛のご経験は?」 「ありませんね、あいにく」 「実は地元に残してきた生き別れの幼馴染みが」 「無いですって」 なんですか、生き別れの幼馴染みって。 それ単純に疎遠でしょうよ。 「そもそも、ぼくが東京に出てきたのってあんまり前向きな理由じゃないですからね。新卒で入った会社が何年もしないうちに倒産しまして」 「とうさん」 「ド田舎すぎて再就職出来るような先もありませんでしたから、体当たり的に身一つでこっちに出てきたんですよ。言っちまえば、破れかぶれってやつです」 「とうさん……はーさん、ひーさん……いや……」 「無理矢理過ぎませんか?」 他人の苦労話も笑い話に変えようとするポジティブさはすごい。 3: ◆PL.V193blo 2018/04/18(水) 18:33:48.16 ID:hD9nuK1M0 「まあ、それでいま、こうして楓さんと仕事出来てるんですから、世の中わからないものですけどね」 いや、もはや笑い話以外の何者でもないか。あのまま地元に引きこもってたのなら、これほど毎日面白おかしく過ごす人生では無かったに違いない。 気苦労もそりゃ多いし、毎日気忙しいけれど。 「そうですね。私も貴方に逢えました」 そんな僕の胸のうちを読み取ったのか、なにかたくらんでる、あの笑みを浮かべた。 「「それもまた結び」」 「……ですねっ、ふふっ」 映画のキーワードが狙い通り俺とハモったのが面白かったのか、楓さんはくすくすと笑う。 打ち解けるまで時間がかかるから、外向きにはずっと「神秘の女神」のイメージだけど、実際の彼女はとてもひょうきんで、本当にどうでも良いことのなかにもポイントを見つけて、よく笑う。 この人はきっと、箸が転げても面白がってるんじゃないだろうか。 ……きっと、笑うんだろうな。また掛かってるんだか掛かってないんだかよく分からない駄洒落で。 なんて洒落を飛ばすかはわからないが、その時の表情は……あぁ、ありありと想像できる。 「あ、失礼な事考えてる」 「今日も暑くなりそうですねぇ」 「あ、露骨に話そらした」 「……楓さんはどうなんですか? 地元にそういう……残してきた人、なんかは」 「……ふふっ。さあ……どうでしょーか?」 僕よりも若干高いくらいの身長の彼女が、両手を後ろで組んで、頭をかしげるようにして見上げてくる。 その悪戯な笑みに、おもわずこちらは面映ゆくなってしまう。 「Pさんは信じますか? そういうの」 「え?」 「前世の結びとか、縁(えにし)とか、そういう、運命みたいなものです」 左右で違う風に輝く瞳は、時々本当に吸い込まれそうな錯覚に陥る。 「ぼくは……」 碧の瞳の奥に棲まう虹彩の輪が、僕の意識を絡めとろうとするようだった。 4: ◆PL.V193blo 2018/04/18(水) 18:34:31.05 ID:hD9nuK1M0 「――――――信じませんね。僕は、信じません」 わりとはっきり、言ったかもしれない。 その時、彼女はどんな顔をしただろうか。 「二度目、三度目があるなんて考えたら、きっと甘えちゃいますから。生きてる間の事は、生きてるうちになんとかしなきゃ駄目だと思います。万事、後がないと思って臨むのみです」 「……なんか」 ぱちくり、と、大きな瞬きをした。 「お侍さんみたいですね、Pさん」 「へ?」 「ちょっと“弾正じゃ、弾正久秀の仕業じゃあ”って言ってみてください」 「うるっせえですよ高垣」 「“謀ったか三郎右衛門尉”でもいいので」 「クーデターですか? 僕クーデターされんの?」 なんでそんな腹黒いやつばかりなんですか。 こないだ楓さんの出演した時代劇、江戸時代の話じゃないでしたっけ。そいつら戦国の謀将なんですけど。 「私は……信じたいですね」 ひとしきり僕をからかったあと、おもむろに言う。 「信じたいです。縁があるということ」 「そう、ですか」 にっこりと、笑う。 それをみたら、僕も笑うしかなかった。 (……貴方に逢えました、か) そりゃあこっちの台詞です、なんて。 言わないですけどね。 「あ、そうだ」 一瞬の沈黙ののちに、ポン、と楓さんは両手を叩いた。 「お侍さんと言えば、私の地元に侍神社ってあるんですけど、その近くに隠れ温泉が有ってですね」 「へえ」 「明日はオフですよね」 「そうですね」 「そこで一日のんびり過ごすというのはいかがでしょう」 「ああ、いいんじゃないですか? 久しぶりにご実家や地元の友人とも会ってきては」 「あら……いきなり実家へごあいさつ下さるなんて、気が早いですね、プロデューサー♪」 「え?」 「私、電車と温泉の予約しておきますので、荷造り、しておいてくださいねっ」 「……え、ちょっと待って下さい!? 僕も行く流れなんですかコレ!?」 「……?」 「いや意味わかんないみたいな小首かしげないで! ていうか、私明日仕事! 聞いてますか楓さん? 楓さーん!?」 続きを読む