転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1465742480/ 1: ◆C2VTzcV58A 2016/06/12(日) 23:41:20.78 ID:hpC5cubuO 「………ん」 重い瞼をゆっくり開くと、見慣れたアパートの一室の白い天井。 その日の目覚めは、外でワンワン吠えている犬の鳴き声とともに始まった。 「んぅ……うるさいなぁ」 右腕を布団から出して、ふらふらとあちこちさまよわせる。 こちん、と固形物にぶつかった感触があったので、つかんでこちらに引き寄せる。 2: ◆C2VTzcV58A 2016/06/12(日) 23:42:58.54 ID:hpC5cubuO 「まだ5時半じゃん……バカ犬めぇ」 当たり前だけど、目覚まし時計のスイッチを切ってもワンワンとうるさいアラームは消えない。 また向かいの家のおばさんが、自慢のゴールデンレトリバーを朝の散歩に連れ出しているんだろう。あの犬はやたらと周りのモノに吠えまくる。私に会うと一段とよく吠える。 窓を開けて「やかましいわっ!」と吠え返してやりたい気分に駆られるけれど、それをやるだけの気力すら湧いてこない。 「ふわぁ……」 イライラはぁとを胸の内にしまいこみ、布団から半身を起こす。昔はついついブラとショーツだけで寝ちゃう日もあったんだけど、最近はちゃんとパジャマを着てから眠るようにしている。体調管理も仕事のうちと、何度も口を酸っぱくして言われているからだ。 3: ◆C2VTzcV58A 2016/06/12(日) 23:44:34.49 ID:hpC5cubuO 「仕事……仕事かあ……」 頭のてっぺんあたりで妙な感触があるから触ってみたら、案の定寝癖がひどいことになっていた。 ぽんぽんと髪の撥ね具合を確かめて、寝ぼけ眼をこすりながら、働かない頭でぼんやり物思いにふける。 「……だね。はぁと、アイドルだもんね」 なんともいまさらな事実を確認したつもりだった。でも、不思議とその独り言は、胸にふわふわと残り続ける。 「アイドル……アイドル、かあ」 芸能界に足を踏み入れてから、もうたくさんの時間が過ぎ去っているはずなのに。 本当にいまさら、その単語が大きな大きな意味を持つように感じられた。 続きを読む