転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1468640515/ 1 :だりやすかれんだよ ◆5F5enKB7wjS6 2016/07/16(土) 12:41:55.81 ID:U+SVthFQO ――― 「――ただいま、戻りました……」 夏の気配が色濃く漂い始めた街をぽてぽてと歩き、過ごし慣れた事務所へようやくたどり着いた。 陽炎が揺らめくアスファルト。照りつける日差しを容赦なく反射し、肌を焼いてくるビルの窓ガラス。 それらをなんとか掻い潜った私は、肺に溜まった熱気を吐き出してひと息。 「おかえりなさい、泰葉ちゃん。外暑かったでしょう? クーラー入れときましたよ♪」 「あ……ちひろさん。ありがとうございます……ふう、本当に茹だりそうでした」 「ふふふ。お仕事お疲れさまでした」 今日はもう、日が沈んで涼しくなるまで外には出ない。 汗を拭いながらそう決めて、いつものソファーに身を預けた。 2 :だりやすかれんだよ ◆5F5enKB7wjS6 2016/07/16(土) 12:43:21.24 ID:U+SVthFQO 「今日のお仕事は……うん、泰葉ちゃんはもう無いみたいですね」 「はい、良かったです……。またこの暑い中に放り出されるのは、ちょっと……」 カチカチカリカリとマウスを動かして、ちひろさんがスケジュールを確認してくれる。 手帳にもしっかり書いてあるけれど、自分で確認するには今は頭がくらくらしすぎて……ちょっぴり甘えてみたり。 「ふふ、なにか飲み物でも飲みます?」 くったりとソファーに沈み込む私を見て、優しいお姉さんはにこやかに聞いてくれた。 「あ……それじゃ、アイスコーヒーを」 「はーい、ちょっと待っててね♪」 3 : ◆5F5enKB7wjS6 2016/07/16(土) 12:45:25.33 ID:U+SVthFQO 給湯室に消えていく影をぼやっと眺めて、もう一度息を吐く。 今度は室内の冷たい空気を感じて、今日のお楽しみを思い出した。 「……ふふっ」 鞄を漁って、丁寧にしまっておいた包みを取り出す。 私の好きな青色のリボンで括られた、桃色の袋。 ――だってピンクも好きでしょ? ……いつそのことがバレたのか分からないけど、まぁそれはそれでいいとして。 『誕生日おめでとう! R&K』 挟まれている小さなメッセージカードに書かれた短い言葉だけでも、ふたりの想いは充分に伝わってきた。 4 : ◆5F5enKB7wjS6 2016/07/16(土) 12:47:06.65 ID:U+SVthFQO 「はぁ……良い香り」 ラッピングされていても、なお漂う香ばしい匂い。 この匂いだけでお腹がいっぱいになってしまいそう。 今朝、事務所を出て別れる際に、慌ただしく渡されたけど……未だその香りは衰えず。 「……はぁ~」 「――おまたせしましたー♪ ……なにしてるんですか泰葉ちゃん」 鼻をくっつけてくんくんしていた私を誰が責めるというのか。 プレゼントを放り投げなかっただけでも褒めてほしい。 続きを読む