転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1552986321/ 1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/03/19(火) 18:05:22.35 ID:9ZUEfJgu0 この物語はフィクションであり、実在する事件、団体、人物とはいかなる関係もありません。 また、人によって嫌悪感を抱いたり、既存のイメージを著しく損なう可能性のある表現が含まれています。 2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/03/19(火) 18:05:48.87 ID:9ZUEfJgu0 ―――――――――――― 3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/03/19(火) 18:06:17.07 ID:9ZUEfJgu0 白鷺千聖という人間の価値は一体どれほどのものだろうか。 新宿の一等地にあるホテルの一室で、ベッドサイドの仄暗い明かりをぼんやり眺めながら、私はそんなことを考えていた。 時刻は日付が変わる三十分前。今日という、パステルパレットにとって、あるいは私にとって、何かの節目になるはずの一日ももう間もなく終わろうとしていた。 そう思うと、浮ついた現実というものが実体をもって、やたら馴れ馴れしい態度で私の身体を余すことなく這いまわっているような気がしてしまう。 (……いえ。気がしてしまう、ではもう済まない話ね) 天井の染みを数えていれば終わる、とはよく聞く言葉だった。身体の中に残る不快感とも異物感ともとれない奇妙な感覚から目を逸らすように、私は目を瞑って、「これでよかったんだ」と胸中で呟いた。 4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/03/19(火) 18:07:17.43 ID:9ZUEfJgu0 ◆ 事の発端は、パステルパレットの当て振り騒動のあとのことだった。 事務所のスタッフの手違いで例の騒動があったあと、彩ちゃんをはじめ、みんなが頑張ってその評判を覆そうとしていた。 最初こそ無駄なことだと私は考えていたけれど、ただ愚直に、不器用に……だけど一生懸命に頑張り続ける彩ちゃんの姿を見て、考えを改めた。 このバンドで、パステルパレットで、私ももう少し頑張ってみよう……と。 けれど努力が全て報われるのならきっとこの世界に不幸な人間はいないだろう。夢やおとぎ話みたいな優しさを現実は持ち合わせていない。 彩ちゃんたちの頑張りも一定の人たちには届いたけれど、世間に染み付いた“当て振りの口パクバンド”というイメージは到底覆せるものではなかった。 所詮バンドごっこをしているグループ、客を騙してお金を巻き上げる事務所……そんな風評がネットのそこかしこに転がっていた。ネットが大きな発言力を持つ現代社会において、それはパステルパレットにとって致命的なダメージだった。 挽回のためのライブで、やれることは精一杯やった。けれど、私たちの全部はそこにいたお客さんに届かなかった。 5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/03/19(火) 18:07:53.23 ID:9ZUEfJgu0 以前の私ならどうしていただろうか。 きっと一瞬の躊躇いもなくパステルパレットを切って捨てて、違う道を選んだだろう。だけど今の私にはそれが出来なかった。 報われてほしかった。 彩ちゃんたちの努力が報われなかった時、一番に頭に浮かんだのはそれだった。 私一人ならいつだってこのミスを挽回できる。それだけの場数をこなしているのだから、時間は少しだけかかっても、それくらいは造作もないだろう。 けれど走り始めたばかりの彩ちゃんたちにはその手立てがない。パステルパレットで失敗すれば、それでもう全部終わりなのだ。 だから報われてほしかった。だけどあの場所では報われなかった。まばらな拍手を思い起こすたびに、私の胸に鈍い痛みが走る。 どうにかしたいと思った。自分でもどうかと思うくらい、私は彼女たちが輝けるようにしてあげたいと願った。 それからもパステルパレットとして地道に活動を続けていたけれど、一度ついたイメージは払拭できそうもなく、鳴かず飛ばずの日々が続いた。 それでもいつか分かってくれる。そう信じて、愚直に頑張り続ける仲間たちを見ていられなかった。 私に出来ることは何かあるだろうか。白鷺千聖という女優についたイメージを利用してでも、もう一度あの子たちに――パステルパレットにチャンスは訪れないだろうか。 続きを読む