【モバマス】死の前に一寸、偶像を

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転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1547474695/

1 : ◆5AkoLefT7E 2019/01/14(月) 23:04:55.77 ID:dPFjdLmPo



塩見周子さんのお話です







2 : ◆5AkoLefT7E 2019/01/14(月) 23:05:23.46 ID:dPFjdLmP0


 目が覚めた瞬間、違和感を覚えた。
 場所は大丈夫。ここは自分の家の、自分の部屋だ。布団の感触は愛用しているものに違いないし、枕の硬さも感覚が覚えている通り。自分の部屋の匂いなどについて考えることなんてほとんどないけど、そこも別に違和感の発生源ではないだろう。
 視線の先にある天井だっていつもと同じものだ。眠れない時に目を開くと、決まってなんだか木目が人の顔のように見えてしまって無性に気味が悪くなる。
 いや、確かに天井は自分の部屋のもので間違いない。間違いはない……のだが、そもそもあまり朝に天井を見た覚えがない。いつも目が覚める時は、いつの間にやら横を向いている気がする。……いやいや、そりゃあいつもはそうでも、今日に限って寝相がよくったって何もおかしいことはないか。
 それにしたって確かに、今日はなんだか寝相も寝覚めも素晴らしいような気がしてきた。体は完全な仰向けで、掛け布団は少しも傾かず、自分の肩より下を覆っている。ふと、両手を動かそうとすると、どうやら掛け布団の下、自分の胸の前で祈るように重なっているようだった。
 よほど深い眠りに落ちていたのかもしれない。まあ、たまにはいいだろう。疲れていただけだ。昨日は何をしたんだっけ。確か……

「……っ!」

 ズキン! と、鈍い痛みが頭に走った。思わず声にならない声が口から漏れ出す。
 数十秒ほどで頭痛は治まったのだが、今まで感じたことのない痛みだ。体調になんらかの問題があるなら、今日は学校を休むべきかもしれない。どうせ卒業間際なのだから大したことはしないし、ここでサボったからといって卒業を取り消されるなんてこともありえないだろう。ひとまずは時間を確認することにした。
 寝る時にはいつも枕元にスマートフォンを置いているから、それを見てみるのが早そうだ。昔は目覚まし時計などを使っていたこともあったが、最近ではもっぱらスマートフォンのアラーム機能に頼りきりになっている。
 体を横に向け、枕の右の方をごそごそと探る。しかしなかなか目当てのものの感触はない。手の可動範囲を少しずつ広げていき、さらに探す。

「目が覚めましたか。おはようございます」

 声がした。知らない男の声だ。心拍数が一気に跳ね上がる。誰? 誰? 父親の声ではない。これでも十八年はこの家にいるのだ。肉親の声と知らない人間の声を聞き間違えるはずがない。嫌な汗が吹き出す。探し物のことなんて頭の隅にも残っていない。
 幸いなことに、まだ何かしらの危害を加えられたわけではない。まずは相手の姿を確認しなければ。鼓動がうるさく、半身を起こす作業に数十分も要したような錯覚を覚える。いや、錯覚ではないのかもしれない。とにかく体が重い。横になっていた時には気がつかなかったのだが。
 やっとの思いで上半身を起こす。そのまま、体を、声がした方向へ向ける。ゆっくりと。体はまだ重い。

「怖がらないでください。怪しいものでは……まあ、あるかもしれませんが、あなたに何かしようという訳ではありません。もし私の体があなたに触れた時には、思い切り声をあげてもらっても構わない」

 男の口調は落ち着いている。そして、目が合った。
 声の割りには顔から受ける印象は若い。しかし二十代ではないだろう、三十と言われても納得できるが、声を聞くと五十手前だっておかしくはない。いや、そんなことはどうでもいい。なぜこの男は自分の部屋にいるのだろうか。目的は何だ? カネか? いやいや、一介の女子高生の部屋に入ってカネを寄越せなんてことはないだろう。資産家の御令嬢の独り暮らしならまだしも、この家はただの和菓子屋だ。
 となると目当ては自分か。まあ普通に考えたら目当てはカラダとしか思えない。自賛になるが、顔は整ってる方なのではないだろうかという自覚はある。ストーカーが後ろをつけてきて、自宅を割り出し、不法侵入。まあよく聞く話だ。それにしてもおかしいのは男の服装である。男が着ているのはスーツだった。いや、違う、ネクタイが黒い。ということはあれは……喪服だろうか。外からの光はただでさえ少なく、カーテンの遮光も十分に働いているこの状況において、さすがにネクタイの色が黒なのか、それとも深い紺なのかまではわからない。それ以外の部分で判断するべきなのかもしれないが、生憎、スーツと喪服の違いなんて考えたこともない。

「だれ……?」

 掠れた声がようやく喉から顔を出してくれた。もう飲み込む唾も残っていない。これで喋れなかったら、もう全てを諦めて二度寝でもしていようかというところだ。

「塩見周子さん」

 ビクッと体が反応する。呼ばれたのは間違いなく自分の名前だ。この男は名前を知っている。無差別ではなく、明確に自分を狙ってここにいる。それと同時に、またしても鼓動が早くなる。何か、恐ろしいモノと対峙しているような感覚が芽生えてきた。

「あなたは、今日、死にます」




3 : ◆5AkoLefT7E 2019/01/14(月) 23:06:36.29 ID:dPFjdLmP0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 たちの悪い冗談だ。いや、冗談であってくれ。という方が心情としては正確か。
 知らない男が自分の部屋にいるという、それだけでもうキャパシティなどとうにオーバーしているのに。
 今、何と言った? 自分が今日、死ぬ? 
 男は黙っている。こちらの反応を伺っているのかもしれないが、薄暗いこの部屋で、動揺したこのアタマで、それを類推することなど、とてもじゃないが無理だ。
 言葉を返すことが出来ない。何を言えばいいのかわからない。まあ、例え言うべき言葉が見つかったところで、この喉では呻き声にしかならないのだが。

「あなたは今日、午前八時二十四分、学校から百五十メートル離れた交差点で亡くなります。死因は出血性ショック死。直接の原因は、居眠り運転のトラックが歩道を歩行中のあなたに突っ込んできたことでーー」

 目の前にいる男の口から、次々と言葉が浴びせられる。今の自分の脳が、それを受け止めることなど到底できない。
 到底できない、はずだったのだが、なぜか自然と、男の放つ言葉が、その意味が、頭の中に入ってくる。午前八時二十四分に学校近くの交差点。自分は毎日、八時半には教室の自席に到着するようにしている。該当の場所をその時間に通過していてもおかしくはない。いや、もう少し遅いだろうか。まあ、信号にかからずに駅から歩けたのならありうる時間か。
 いやいや、そんなことを確かめている場合ではない。どう考えても。
 大切なのは、死ぬという事実について。自分は本当に死ぬのだろうか。それは、いくら考えても仕方のないことなのだが。死にたいか、死にたくないかと聞かれればーー

「信じることが難しいだろうということは、理解しています」

 こちらの思考が一つの区切りを迎えた、その瞬間に、男が口を開いた。タイミングを伺っていたのかどうかはわからないが。

「回避するために、まず、本日の学校は欠席をお願いいたします。この事故はあなたが原因で起きるものではなく、家にいればニュースとして耳に入るでしょう。安心してください、他に巻き込まれる方はいません」

 依然として声は出ない。

「それが証明となると思います。その後でまた、お話ししましょう」

 男は話を切り上げようとしている。まだ聞きたいことが。
 パチン、と、男が指を鳴らす。
 その刹那、周子の意識は途切れ、体は再び、布団へ放り出されることとなった。




4 : ◆5AkoLefT7E 2019/01/14(月) 23:07:36.59 ID:dPFjdLmP0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 枕元のスマートフォンが、けたたましい音を鳴らしている。
 意識を取り戻すまでに、いつもより多くの時間を要したようだ。
 頭が重い。体もやはり、思ったようには動いてくれない。
 しかし、あの男と交わした会話は、いや、こちらは返事の一つもできていないのだから、会話と呼ぶべきかはわからないが、なぜか鮮明に残っている。

「夢……?」

 声を出すのが、随分と久しぶりのようにすら感じられる。
 あの男は、このまま学校に向かえば死ぬと言っていた。こちらとしては、言いなりになって休むのも癪だし、平然と学校に向かっても良いのだが。

「っつぅ……」

 いかんせん、頭痛が止まらない。
 流石にこの調子では、学校まで辿り着けるかどうかすら怪しいだろう。あの男によるものなのかどうかは判断できないけれど。
 ともあれ、今日は学校を休もう。重い頭を無理やり起こすと、台所で朝食の支度をしている母親にその旨を伝える。病院へ行くことを勧められたが、適当なことを言って断ることにした。あの男の予言の真偽を確かめないことには、治るものも治らない。

 再び布団に潜り込む。予告された時間にはまだ余裕があったが、かといって何かしようとも思えなかった。
 意識があるのかないのか、それくらいの微睡みに身を委ね、時間を確認しては潜り込み、そのようなことを繰り返しているうちに、時間が近づいてきた。





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