転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1541779802/ 1 : ◆yufVJNsZ3s 2018/11/10(土) 01:10:02.81 ID:WBgct1LS0 大井「今晩寝かせるつもりはないわ」の続き 濡れ場の習作、地の文あり 2 : ◆yufVJNsZ3s 2018/11/10(土) 01:11:09.53 ID:WBgct1LS0 確かに、キスをせがんだのは私からだった。 しかし、舌を絡めてきたのは彼からだ。 だから。私はそう繋ぐ。「だから」私は負けていない。 惚れたほうの負け、だなんて使い古された文句には生来懐疑的だった。恋愛というのはそんな対立構造や支配関係とは無縁のものだとずっと思っていたからだ。そして今、私は宗旨替えをしようとしている。 否、余儀なくされている、と言ったほうが正しいのだろう。 天秤の均衡を望むのは、単に負けるのが悔しいからではない。百注いだ愛に、一しか返ってこない「かもしれない」ことへの恐怖がそうさせるのだ。私はその理解を、口の中で混ざり合った唾液とともに嚥下する。 ファーストキスは、少しだけ、コーンスープの味がした。 3 : ◆yufVJNsZ3s 2018/11/10(土) 01:11:37.91 ID:WBgct1LS0 苦しくなって唇を離すと彼は屈託なく笑った。何度も「好き」と告げた彼の部分のひとつ。直截的な感情の発露。一切の衒いのない、花の咲くような。 暗い部屋の中であっても私は彼の顔がわかる。表情が見て取れる。となれば当然、彼からも私の顔が、表情が、判然としているということになる。だから笑っているのかもしれないし、もっと別のところに思いを寄せてなのかもしれない。 ただ、彼の笑いが私に由来するものであることは明白だった。そして、全ての価値はそこにあった。 いまはそれだけでよかった。 心臓がどくんどくん音を立てている。耳を澄ませばいつもより断然早い血流さえ聞こえるだろう。思わず両手を重ねあわせて、胸のところで握り締める。早鐘を押さえつけるように。 「鼻で息をすりゃあいいのに」 そう言って、また、笑う。どうやら理由はそういうことらしい。 「初めてってわけでも――」 途中で彼の表情が固まる。いや、固まったのは私? それとも、私のせい? 「……なによ」 4 : ◆yufVJNsZ3s 2018/11/10(土) 01:12:12.33 ID:WBgct1LS0 なんとなく視線を逸らそうとして、可能な限り横へ向いたとしても、完全に視界から締め出すことはできない。 背中にはベッドのマットレスの感触。前には、こちらを押し倒す体勢の彼の姿。 「悪い?」 「あぁ、すまん、悪くはねぇ。寧ろいいっつぅか、いや、何を言ってんだ俺は。いいのか? っつぅか」 しどろもどろ。その単語がここまで似合う人間を、私は見たことがない。思わず吹き出しそうになるけれど、少しばかりの悪戯心で、表情は依然睨みつける状態を維持。 初めての女は面倒くさいと言うのなら、今すぐ股間を蹴り上げる心づもりだった。 そして彼の驚きは、逆説的に彼自身は初めてでないことを如実に示している。年齢を考えれば当然ではあるけれど、前の女の存在をにおわせるのは、流石に少し、デリカシーが足りない。 ……他人のことを言えた義理ではないのは百も承知。種類こそ違えど、私も随分ときついことを言い続けてきたわけなのだから。 続きを読む