転載元 : https://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1550410572/ 1: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/17(日)22:36:12 ID:rBb デレステのストーリーコミュ55話を前提にしたお話です。 2: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/17(日)22:37:12 ID:rBb ○白菊ほたる「あの歌を歌う」 アイドルを目指して鳥取から出てきて、どれぐらいになるでしょう。 アイドルを目指す夢はまだ果たせないままだけど、東京での暮らしが長くなるうちに、私――白菊ほたるの生活には、いくつもの習慣ができました。 夜明け前の、人があまり居ない時間にランニングをすること。 学校帰り、川沿いの高架下で発生練習をすること。 少し無理して買った姿見の前で、笑顔を作る練習をすること。 ――そして辛いとき、公園に行くこと。 その公園は、私がお世話になっている下宿の最寄り駅近くにあります。 少しの遊具と緑、そしてベンチがあるだけの、何の変哲もない公園。 鳥取を思い出す山茶花の影に隠れた、誰も座らないベンチが私の指定席。 つらい気持ちがあふれそうになって、私は今日もこのベンチに腰掛けて、じっと目を閉じるのです。 アイドルになるのに苦労があることも、自分の不幸も、覚悟していたことでした。 ――だけど。 3: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/17(日)22:38:08 ID:rBb 『いやよ。私、ほたると一緒なら現場に行かない』 今朝がた、事務所で言われた言葉を思い出します。 事務所の稼ぎ頭、明るい笑顔とトークが売りの先輩。 バーターとして私も一緒に先輩の出る番組に出してもらうことになった、とプロデューサーさんから説明を受けたとき、先輩は私を睨んで、はっきりとそういったのです。 とても、冷たい目でした。 最初はそうじゃなかったんです。 先輩はとても明るい人で、面倒見が良くて。 自分も地方出身だからって、何度もオーディションに落ちたからって、私にとても親切にしてくれて―― だけど、それは変わってしまいました。 私のまわりには、不幸があります。 それはじわじわと身体に染み入る冬の冷気みたいに、少しづつまとわりついて、やがて人を締め上げていくのです。 小さな予定のすれ違い、なんてことないトラブル。 最初は気にしないといってくれた先輩の笑顔が、トラブルが続くうち、そして先輩自身や先輩の知人にまで考えられないような不運に見舞われるうちに変わっていくのを、私は何も出来ないまま、見ていました。 ――苦労も、不幸も、覚悟していたことでした。 だけど、これにだけはいつまでも慣れることができません。 優しい人、親しくしてくれた人、友達で居たいと思った人―― そんな人たちが私の不幸で傷つき、やがて私を恐れ嫌うようになってしまうことには。 4: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/17(日)22:39:04 ID:rBb 離れていく人たちに、何度手を伸ばそうとしたか、解りません。 嫌いにならないでって。 謝るから一緒に居てって、何度言おうとしたか解りません。 だけど、その資格が自分にはないことも、原因が私にあることも、身に沁みて解っていたから。 私はいつも、伸ばそうとした手を力なく下げたまま、ただ『すみません』としか言えないでいたのです。 ……明日は、お仕事です。 先輩のバーターだけど、初めてのお仕事。 アイドルとして初めて、ちゃんと現場に向うところまでたどり着いたお仕事です。 でも、明日、先輩は来てくれるでしょうか。 仕事は、うまく行くのでしょうか。 いえ、そもそも、こんなふうな私が、アイドルになることなんてできるのでしょうか。 続きを読む