転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1550590751/ 1 : ◆TOYOUsnVr. 2019/02/20(水) 00:39:12.53 ID:QG61bbmB0 人混みをかきわけて、スーツ姿の男が一直線にこちらへ歩いてくる。 「よっ」だとか「ほっ」だとか。 そんな間抜けな声を上げ、私の目の前に到着した彼は歯を見せて笑う。 「お待たせしました」 「うん。待った」 「ごめん、ってば」 言いながら、そのまま私の手を取って「じゃあ行こうか」と引いてくるので、「ん」と返事をして、されるがままに足を踏み出した。 2 : ◆TOYOUsnVr. 2019/02/20(水) 00:39:51.57 ID:QG61bbmB0 ○ 数分ほど歩いて、先を行く彼の足がぴたりと止まった。 「どうしたの?」 「いや、カレーのいい匂いするなぁ、と思って」 言われて、鼻を利かせてみると確かに、風に乗ってどこからか運ばれてきたカレーの匂いがした。 「そういえば、あったよな。カレーのさ、事件」 「カレーの事件?」 「ほら、事務所でさ、めちゃくちゃ怒られたやつ」 「あー、あったね。そんなことも」 「なー。あのときの凛の慌てようは最高だった」 「あれ、私は被害者みたいなものなのにね」 「そうだっけ」 「そうだって。そっちが言い出して、私は巻き込まれただけ」 「何を。凛だってノリノリでカレー作ってくれたクセに」 「私、アイドルになったばっかで言いなりだったし」 「嘘つけ。凛は最初からそれなりにフランクな感じだったし、何よりアレはアイドルになってから結構経ってた」 「そうだっけ」 「そうだって」 もう何年も前の事件の責任のなすりつけ合いをしながら、歩く。 もちろん悪事の比率的には、隣のへらへらしている男が九割九分くらいを占めるのは言うまでもない。 はぁ、と吐いた白い息が蜜柑色の空へ立ち上ってくのを見送り、思い返す。 そういえば、あの日もこんな寒くて、夕焼けが綺麗な日だった。 続きを読む