転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1547908951/ 1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/19(土) 23:42:32.30 ID:10Ne4ngY0 === 北沢陸、五歳。 少年は冷蔵庫からキンキンのヤクルト容器を取り出すと、 憂いた手付きで蓋を開け、溜息と一緒に乳酸菌を胃袋の中へ納め入れた。 そして小さくげっぷ、ゴミはゴミ箱へ。 肩から外す鞄は彼が保育園のお世話になっていることを周囲へ示す証である。 その一連の様子を姉は見ていた。 北沢志保、十四歳。 彼女は買い物袋の中身を冷蔵庫へと移しながら、 この愛しき弟が何か重大な悩みを抱えている事実にそれとなく気がつき始めていた。 2: ◆Xz5sQ/W/66 2019/01/19(土) 23:44:06.39 ID:10Ne4ngY0 「ねぇりっくん、今日、保育園で何かあった?」 「……べつに。なんでそんなこと聞くの?」 「なんでって……。いつもと少し、雰囲気が違うから」 姉は努めて優しくそう答えた。弟が着替えの為に制服を脱ぐ。 その背中から感じ取れるオーラは実に頑ななモノであり、 陸少年がパンツ一枚の姿になっても迫力は衰え知らずだった。 3: ◆Xz5sQ/W/66 2019/01/19(土) 23:44:51.87 ID:10Ne4ngY0 「……お姉ちゃんって、アイドルでしょ」 志保が返答に困って動きを止める。 愛する弟に問われた通り、北沢志保は間違いなくアイドルだった。 それもクラスの中の人気者や、町内会の老人達から 孫のように可愛がられている――といった比喩表現的アイドルではない。 仕事として、生き様として、煌びやかな衣装を身にまとって、 大勢のファンの前で歌って踊る本家本元大元締め、正真正銘の元祖アイドルなのだ。 4: ◆Xz5sQ/W/66 2019/01/19(土) 23:45:40.42 ID:10Ne4ngY0 「まさか、お友達からサインをねだられたの?」 姉は思った事を素早く口に出した。 「ううん、そんなことされてないよ」 弟が即座に否定を返す。 「だってお姉ちゃん伊織ちゃんじゃないもん」 刹那、志保は自らの視線を愛弟の背中から派手に逸らし、 込み上がる嗚咽を漏らさぬように口は片手で無理やり押さえつけた。 その不甲斐なさに小さく肩は震え、 手にしていた卵が床に落ちた衝撃で無数にひび割れる。 それはあたかも志保の心のようで、 滲み出す白身に彼女は悔し涙を堪え切れない。 続きを読む