転載元 : https://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1547566597/l10 1: 名無しさん@おーぷん 2019/01/16(水)00:36:37 ID:Dtn 「人を殺した事があるんです」 不気味なくらいに月が美しい夜、彼女は俺に向かってそう言った。 「私がこの教会でシスターになる前の事です。私はこの手で人を殺しました」 月明りだけが照らす協会で、彼女は自分の罪を懺悔していた。俺に話すかのように、神に話すかのように。開かれる事のない瞳を向け、淡々と。 「どうして殺さなければいけなかったのかは私にはわかりません。あの時の私にはそれだけが最善の方法に思えたのでしょう」 俺が口を挟む暇もなく、彼女は続けている。 「ナイフを突き立てた時、あの人の顔には恐怖が浮かんでいました。身をよじり、逃げようとするあの人に向かって馬乗りになり、二度、三度と。何度も何度も。繰り返しナイフを突き立てました」 彼女は自分の右手に視線を落として、何かを握るような素振りを見せた。おそらく、殺した時の事を思い出しているのだろう。 2: 名無しさん@おーぷん 2019/01/16(水)00:38:43 ID:Dtn 「返り血でナイフが滑り、次第に右手だけではナイフを支えられなくなりました。私は着ていた服で手に着いた血を拭い、これ以上滑らないように柄に服を巻き付け滑り止めにしました」 右手を白くなるまでギュッと握って彼女は続ける。 「その頃にはあの人も抵抗を示さなくなってはいたのですが、私はそれでもナイフを突き立てるのをやめられませんでした」 どうして? それだけが俺の頭の中をぐるぐると駆け巡っている。どうして彼女は人を殺さなくてはいけなかったのか。どうして彼女は俺に懺悔しているのか。 徐々に早口になる彼女の懺悔に脳の処理が追いつかなくってくる。耳には入っているのに、彼女の言葉の意味を理解できない。いや、脳が理解するのを拒否している。 「な、なぁ……」 「なんでしょうか?」 油断すると声が震えてしまうのを、何とか理性で押さえつけようやく彼女に質問する機会を手に入れた。 「どうして……なんだ?」 だけど俺にできた質問はその一言だけ。色々な意味を含んだ『どうして』と言う一言だけ。 3: 名無しさん@おーぷん 2019/01/16(水)00:38:59 ID:Dtn 「……先ほども申し上げた通り、私にもわかりません」 そういう彼女の顔にはアイドルの時に見せる優しい笑顔が浮かんでいた。教会で子供達に接する時にも見せる優しい笑顔。シスタークラリスが見せる慈愛の笑顔だった。 「クラリス……今からでも遅くない。自首しよう。ちゃんと罪を償うんだ」 きっと俺が言いたい事はこんな事でないのだろうが、あまりにも衝撃的な告白に脳が機能停止してしまっている。もっと言わなければならない事は沢山あるのに、つい口から出たのはそんな当たり前の事。 「……それはできません」 「どうして……!?」 彼女の言葉に語気が荒くなる。誰にだってやり直す機会は与えられるべきだ。 「プロデューサー様は優しいのですね。ですが私は神の下に善良である修道女でありながらその罪を隠し、神を欺いてきたのです。許しを得る機会はもうありません」 続きを読む