転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1517048613/ 1 : ◆5AkoLefT7E 2018/01/27(土) 19:23:33.70 ID:8nmTFkFe0 「今度、本に乗って宇宙まで旅をする歌を歌うんです!」 そのように茜さんから話しかけられた時、多分に失礼であるという自覚はありながらも、私の頭は固まってしまいました。 ただでさえ眩しい笑顔が、なんだか今日はよりいっそうの光を放っているようにすら思えます。 2 : ◆5AkoLefT7E 2018/01/27(土) 19:24:20.27 ID:8nmTFkFe0 「ええと……」 相槌にもなっていない言葉を口から搾り出しながら、思考をなんとか回します。 『本』という単語は、この耳にはっきりと届きました。だからこそ、茜さんは此度の話題を誰かに話すにあたって、その相手に私を選んでくださったのでしょう。 いえ、もしかすれば、話そうと思ったタイミングで偶然、私がそこにいただけの可能性だってあるのですが。 ……ダメですね。そうとしか思えなくなってしまいました。 ひとまず、今の茜さんの台詞の中で、最も不可解といいますか……理解の及ばなかった部分について、聞くことにしましょう。 「”本に乗って”とは……?」 「本は、宇宙船なんです!」 なんということでしょう。私が普段から好み、もはや生活の一部とも呼べよう”本”というものは、この広大な宇宙を旅できる宇宙船だというのです。これには驚きました。茜さんと過ごす日々は本当に驚くような発見ばかりで…… いえ、茶化すのはやめましょう。それに、なるほど、理解ができました。 確かに、物語を通してならば、私たちはどこへでも行くことができます。私も小さな頃は、世界中の景色の載った本や図鑑を通して、様々な場所への旅行を楽しんだものです。 茜さんは、本を通して宇宙旅行を追体験することを『本に乗る』と表現したのです。どのような類の本を指しているのかはわかりません。図鑑かもしれません、物語かもしれません、ともすれば宇宙についての堅苦しい論文だって、噛み砕けばたちまちに我々を宇宙旅行へ誘ってくれることでしょう。 3 : ◆5AkoLefT7E 2018/01/27(土) 19:24:50.64 ID:8nmTFkFe0 しかしながら恥ずべきは、茜さんが最初に言い放った言葉からその真意を読み取れなかったことです。 正直に言いましょう。その台詞の主が、書に通ずるような、例えば……頼子さんなどが挙げられるのですが、そのような人物であったならきっと、私はその意に辿り着いていました。 茜さんを、見くびっていたのです。これはあまりにも失礼なことだと言わざるを得ません。 「茜さん」 「はい!」 「私たちをどこへでも連れて行く”本”というものを、実際に人類を大気圏の外まで連れ出してくれた宇宙船に重ねたその表現力と想像力、……素晴らしいです」 「なるほど! これ、夏樹ちゃんが言っていたんです! “そう言われると、本ってのは宇宙船みたいなもんだな” って! 私にはあんまりわからなかったですけど、さすが文香ちゃんです!」 「……」 「……?」 「……なるほど」 「どうかしましたかっ?」 「……いえ、茜さんはそのままで素晴らしいのです。と」 「あっ、ありがとうございます……!?」 続きを読む