転載元 : https://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1544885915/ 1 :◆OJaUpTj1VQ 2018/12/15(土)23:58:35 ID:RGL 白い息が空へと消えていく。 灰色の空がつくる冷たい空気は、マフラーと手袋をしていても私を十分に凍えさせた。 私は昼でも燦々とするイルミネーションを横目に、事務所へ足早に向かった。 事務所へ入ると、空調が作り出したぬるい温かさに包まれる。 マフラーと手袋を鞄にしまいこみ、中を見渡した。 やっぱり今日は人も多いように感じる。 クリスマスだからか、ほとんどの子がオフを貰っていた。私もその一人だ。 特に友達と約束していることもないから、私は事務所へと何の目的もなくやってきたことになる。 そうだ、プロデューサーさんに挨拶はしていこう。 いや、何かを誘ってみるのはどうだろうか。 買い物でもいいし、何処か出かけるのもいい。 私は空想を描きながら、プロデューサーさんを探し始めた。 道中にその姿はなくて、結局プロデューサーさんの部屋まで辿り着く。 コンコン、とノックをする。 すぐに「どうぞ」と返ってきた。 「失礼します」 ドアを開け、机をみる。 「プロデューサーさん、あの――」 「Pくん遊びに行こうよー! 折角のクリスマスなんだよー!」 「みりあも! みりあもー!」 「ちょっ、忙しいって言ってるだろ。今日は外せない仕事があるんだ。ごめんな」 「えー。デートしようよー」 「プロデューサーさん。デートなんて、しませんよね……? うふふ……」 「し、しないって。……だぁーもう莉嘉離れろよー!」 ……何やら賑やかだった。 プロデューサーさんはたくさんの他の子に囲まれていた。 「――って、肇じゃないか。どうかしたのか?」 「い、いえ。何でもありません」 「何だ? 具合でも悪くしたか?」 「あ、あの。本当に何でもないんです。……失礼しました」 「あ、ちょっと、肇!」 プロデューサーさんに呼び止められたけれど、私は部屋を出ていってしまった。 しばらくして、また部屋からは賑やかな声が聞こえてくる。 私は逃げるようにして、その場から立ち去った。 2 :◆OJaUpTj1VQ 2018/12/16(日)00:05:15 ID:4Pv ……馬鹿だな、私。 心からそう思う。 プロデューサーさんを誘おうだなんて。 プロデューサーさんは私だけのプロデューサーさんじゃない。仕事だってあるんだし、私のためだけに時間を割いてくれるなんて、傲慢もいいところだった。 プロデューサーさんはみんなのプロデューサーさんなんだ。 ……今日はどこかでじっとしていよう。 窓を眺める。灰色はより濃くなって、いつの間にか白い雪が降り始めていた。 3 :◆OJaUpTj1VQ 2018/12/16(日)00:10:43 ID:4Pv 事務所の玄関へと戻ってきた。 「肇ちゃん」 声がかかって、振り返る。 加奈ちゃんと藍子ちゃんがそこにいた。 厚着をしているところを見ると、これから二人も外へ出るのだろうか。 「これから用事?」 「いえ。少し外を歩きたくなりまして」 「それなら、私達と散歩しませんか? 今日は特別な日ですし、きっと楽しいですよ」 「肇ちゃんがいいなら、一緒に行こうよ!」 「――はい。散歩、私も混ぜてください」 私はすぐに返事をした。 少し陰鬱な気分を忘れたかった、というのもあるかもしれない。 商店街を私達は歩く。 周りには赤や緑や、色とりどりの装飾に溢れ、見ているだけでも楽しい気分になってくる。 実際に子供はそんな飾りに目を輝かせて、あちらこちらと動き回っている様子だ。通り過ぎていくカップルも笑顔を見せている。 藍子ちゃんの言った特別な日とはまさにこのことだと思う。 ここには幸せが溢れかえっていた。 「わあ、綺麗……」 「はい。……本当に綺麗ですね」 広場のような空間にそびえる大きいもみの木。LEDが取りつけられていて、人の視線を一挙に集めている。 綺麗に輝いていて。 人の目をひいて。 「――私も、ああなれたら」 「え? 何か言いましたか?」 「あ、いえ、気にしないで下さい」 「肇ちゃん元気ないよ? どうかした?」 「そんなこと、ないですよ」 「あ、そうだ!」 藍子ちゃんが何かを思いついたようだ。 「肇ちゃんにおすすめしたいスポットがあったんです。行ってみませんか?」 「私に、ですか?」 藍子ちゃんは頷く。 私も応えるように頷いた。 続きを読む