転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1438428295/ 1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/01(土) 20:24:55.28 ID:WOfLjiaL0 夕立 2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/01(土) 20:25:15.03 ID:WOfLjiaL0 日中は曇り空だった。降るかなと思っていたらやっぱり降った。この「やっぱり」というのは「宝くじはやっぱり外れたか」の時に用いられる「やっぱり」であって、「やっぱり」と言いつつ反対のことを期待していたが、それが裏切られたので自分を納得させようという「やっぱり」であった。 つまり、提督はこの夕立を事後予想していただけであるから、濡れないための手段を前もって準備していなかったのだ。 雪でも降ってくれれば傘もいらず、まっすぐに帰れたのだが、流石にそれを期待するには夏の世界は暖かすぎた。奇妙な因果でもあれば、白雪でも降ったかもしれないが、それも期待するには世界の法則は誠実すぎた。 提督は雨宿り場所として近くにあった神社を選んだ。賽銭箱の前にある階段に腰掛け、向拝の下に身を隠した。雨量が多く流れ落ちてくる雫はやかんから注がれるように一本の柱となって石畳の浜床を叩いていた。 急に降り出した大雨というのは、最初の勢いだけが良くて、あとは徐々に弱まっていき、雨が上がる頃には木の葉に垂れ下がる水滴は太陽を映しているに決まっているのだ。今無理して帰る必要はない。のんびり待とう。 提督はすぐさま疑問に思った。のんびりするってどうするんだ。「する」ってぐらいだから、何か条件を満たしていないとのんびりできないんじゃないかと思った。 3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/01(土) 20:25:45.51 ID:WOfLjiaL0 提督は普段書類仕事に追われているか、暇であっても娯楽で時間を潰してきた。こうした何をするでもない真空の時間を持つことに慣れていなかったのだ。のんびりすると言っても、すぐに体がうずうずして居心地が悪くなった。 退屈なぐらいならば、雨のうちへ飛び出して、水たまりの中のアメンボと戯れる方が良いような気さえしてきた。腰を上げようとしたのを慌てて留まらせた。成人男性でそれはありえない。 今の状況を客観的に見て、自分はどのような振る舞いをするべきか考えることにする。夏の夕立、寂れた神社で、軍服姿の男が雨宿りをしている。絵になるのは、神妙な表情で何かを考えている様だ。落ち着き無くそわそわしているのは格好が悪い。 よし何か哲学的なことでも考えよう。そう思い立ったのは良いが、そもそも提督には哲学とは何かという哲学的問から始める必要があった。 めんどうくさいと思った。なんで雨宿りのせいでそんな厄介なことを俺が考えなければいかんのだと思った。夕立が原因で人間が思弁的にならねばならないというならば、今頃世の中は哲人皇帝が量産されたり樽の中で暮らしたり火山の中に飛び込んだりする輩が続出して愉快にしっちゃかめっちゃかしているはずだ。 提督は何も考えたくなかった。でも、何も考えていないとは思われたくなかった。なので、ここを通りがかる人がいたら、提督の姿を見て「まあなんて哲学的佇まいなんでしょう」と賛嘆するようにポージングを取ることに専念する。 4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/01(土) 20:27:05.26 ID:WOfLjiaL0 取り敢えずロダンだ。考える人だ。手の甲を巻き込むように顎にあてるポーズをしてみた。どうもしっくりこない。確かにこの姿勢は有名な「考える人」像と同じ。「考える人」って題なのだから考える人の典型姿勢と言ってもいいはずだが、どうも真に迫りすぎて過ぎているのではないかと思う。 両膝を開いて右肘を左膝に乗せようとする姿勢は背中を大きく曲げる必要があって、全体的に縮こまった印象だ。実際に考える人ならばこの姿勢になるのかもしれないが、今の提督は考える人の姿勢を取りたいだけであった。真実はどうでもいい。 足を組んでみる。すると、膝の位置が上がって自然に肘をつく位置も上がるので、背中が少し伸びた。こっちの方がスタイリッシュだと思った。ならば、次はと肘を膝から離して、左の手のひらで右肘を支えるようにする。姿勢がピンとした。これだ。これこそ考える人だと思った。芋っぽさがなく、洗練された都会的な知性を感じさせる姿勢だ。 雨で暗い神社に啓蒙的に座る自分の姿を誰かに見てもらいたいと思った。さあ、俺は通行人を出迎える準備は出来た。誰かこい。誰かこい。と心の中でつぶやいた。 天に願いが届いたのか、神社前の階段を駆け足にあがってくる足音が雨音の中に紛れ出した。え、本当にくるのか、相手も雨宿り目的のはずだ。気まずいなと思った。しかし、姿勢は崩さない。 やってきたのは夕立であった。「夕立に見舞われるなんてついてないっぽい!」と夕立に文句を言っていた。ずぶ濡れでスカートの裾から水が滴り落ちていた。いくらなんでも濡れすぎだ川にでも流されて来たんじゃないかと思うほどだった。 5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/01(土) 20:28:46.73 ID:e9mrciL50 よし!安価だな! 続きを読む