転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1469298376/ 1: ◆oeRx5YHce. 2016/07/24(日) 03:26:16.63 ID:nJ9utrFY0 地の文注意。 凛と卯月の二本立てです。 ラブデス5000と2000逃して悔しかったので立てました。 前スレ 【モバマス短編集】「貴方がくれたもの」 2: ◆oeRx5YHce. 2016/07/24(日) 03:26:48.14 ID:nJ9utrFY0 【渋谷凛】 思い返せば、アレは春のことだったかな。 難なく受験を終えて、特にしたいこともなく高校生になったあの頃。 不思議と入学式にもワクワクしなかったあの頃。 『アイドルとか、興味ありませんか?』だなんて話しかけられたっけ。 散りかけた桜の樹の下で、あの人が私に声をかけた。 その時は特に何も思ってなかったんだけど、うん、人の心は変わるものだ。 出会ったことも、そこから先のことも、何一つ後悔していない。 でも。 私は今、確かに苦しんでいる。 3: ◆oeRx5YHce. 2016/07/24(日) 03:27:23.34 ID:nJ9utrFY0 「お疲れ様です」 今日は特に仕事はない。ただレッスンのために事務所に寄っただけだ。 レッスンは楽しい。自分が成長している感じがするから。 身体の操作とは裏腹に、私の心は幼稚なままだ。 『凛ちゃんは凄いです!』、卯月はそう言ってくれるけど、言われる度に胸がチクリと痛む。 「……本当に凄いなら、こんなに苦しまないのにな」 「んー? どした。調子でも悪いか?」 ……聞かれてた。むしろ、聞いて欲しかった? 「ううん。何でもない。プロデューサーこそ大丈夫?」 椅子の背もたれに身体を預けて私のほうを見てくれるけど、私はぷいっと目をそらす。 恥ずかしいんだ。プロデューサーが嫌いってわけじゃない。 「もち。アイドルに気遣ってもらうなんて、俺もまだまだだなー」 優しげに笑う彼に悪意はない。だからこそ、私の胸はまたチクリと痛む。 「そっか。じゃあ、レッスン行ってくる」 「おうよ。がんばー」 汗を流せば気分も晴れるだろう。 そんなことあるはずもないのに、今日も私は自分に嘘をつく。 4: ◆oeRx5YHce. 2016/07/24(日) 03:29:06.78 ID:nJ9utrFY0 レッスン室までの廊下を歩いて行くと、あの日のことを思い出す。 私が初めてここに来た日。社長に挨拶をして、契約をしたあの日だ。 『キミはこれからアイドルになる。ファンに夢を売るんだ。決して悪夢なんか売ってはならないよ』 社長に言われたあの言葉。その言葉がうるさいくらいに頭のなかでリピートされる。 アイドル。 アイドルってなんだろう。 私はファンのみんなに夢を売れているのかな。 人気も知名度も順調に上がってる。 どれだけ知らんぷりをしていても、数字は明確に現実を教えてくれる。 私にも一定数のファンがいるんだ。 私はアイドル。もう、渋谷凛ではいられない。 アイドルをしなくてはいけない。渋谷凛に戻ってはいけないんだ。 プロデューサーの顔が思い浮かぶ。 またチクリと、胸が痛んだ。 続きを読む