転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1471019869/ 1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/13(土) 01:37:49.51 ID:IPF1yQGEO グラーフ・ツェッペリンはビニールで包装された割り箸を一膳手にし草庵の露地を散歩していた。 安っぽい割り箸はアドミラルがコンビニでナポリタンを購入した際に、店員がプラスチックのフォークと一緒に入れたものだった。 アドミラルはフォークを使ったので、割り箸が余り、それがグラーフ・ツェッペリンに贈られたという経緯であった。 梅雨の季節で曇天の中小雨が降っていた。グラーフ・ツェッペリンは雨が好きだった。晴天時には白じみ少しぼやける煉瓦造りの建物も雨に塗られれば輪郭を明確にしたし、道や草花も色が鮮やかになった。 グラーフ・ツェッペリンは明晰判明なものが好きだった。 そんなわけで涼しい小雨は割り箸を持て余しているグラーフ・ツェッペリンの機嫌を少し良くさせた。 2: ◆zrW7aiInT6 2016/08/13(土) 01:39:14.89 ID:IPF1yQGEO 露地の石畳にはまだ青い単葉が散らばっていた。秩序を愛好するグラーフ・ツェッペリンが一度掃除しようとした時には、このエリアを半ばなし崩し的に管理している鳳翔に止められたことがあった。 「ここは落ち葉があるべきところなのです」と言って、枝を揺さぶり更に五六枚の葉を散らしてよしとする鳳翔をグラーフ・ツェッペリンは呆然と眺めたものだった。 露地の先には小さな庵があった。本当に小さくいくら敷地が狭いからといっても、もう少し大きく出来たのではないか。古びて傾いた屋根は廃線となったバス停留所を彷彿とさせた。 グラーフ・ツェッペリンは縁側に座った。建物の内なのか外なのか境界の曖昧な場所こそ割り箸をただ所持している今の彼女には相応しいように思えた。 靴脱ぎ石をブーツの踵で叩くと、艶のある青尻尾のニホントカゲが出てきてすぐに隠れた。 グラーフ・ツェッペリンは貰った割り箸をかざし眺めてみる。ビニールの端の方には「切り口」と緑色の印があったので、ぴっと裂いてみた。 3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/13(土) 01:39:51.45 ID:IPF1yQGEO 水平ではなく斜めに切れてしまい、切り口は箸を取り出すには不十分の大きさになった。 仕方ないので、紐通しの要領でビニールをしわ寄せて割り箸の天で袋を突き破る。 白樺材の割り箸は天から先まで切り込みの筋が一本通っている元禄型であった。 グラーフ・ツェッペリンは縦に持った箸の使い代部分を両手でつまみ左右にゆっくり引き裂こうとしてみる。 白樺は竹と比べて粘性が強く、最小限の力加減を探ろうと繊細な操作を行った彼女は二度三度に渡る緊張と弛緩の起伏を経験した。 集中により引き延ばされた瞬間は無限の如く。グラーフ・ツェッペリンは手元にある割り箸を観察する余裕と愛着を持った。 4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/13(土) 01:40:42.74 ID:IPF1yQGEO すると、彼女の目には割り箸が粘性と割裂性と相反する性質を持つ矛盾体の様相を呈してきた。 グラーフ・ツェッペリンはこの瞬間、ドイツ的な弁証法の精神を割り箸に見て取ったのだ。 グラーフ・ツェッペリンは集中した。何も大げさなことはない。艦娘として生まれて間もない彼女の意識にとって価値の階梯はいまだ脆弱なのだから。 そもそもどうして己は今割り箸を割ろうとしたのか。割り箸は食事の道具であるのだから、割り箸を割る行為が意味づけられるのは眼前に食事がある時であろう。しかし、グラーフ・ツェッペリンの前に食事はない。 また割り箸の使用法が「箸」としてだけに限られないにせよ、グラーフ・ツェッペリンが目的なく「割る」という行為に及ぼうとしたのは事実らしかった。 「そこに割り箸があるのだから割ろうとしたのか?」。グラーフ・ツェッペリンは己を訝しんだ。どうも合理性に欠ける動因に思えたのだ。 続きを読む