転載元 : http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1541504664/ 1: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/06(火) 20:44:24.241 ID:stk3bmGAD 喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。 ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。 この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。 そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。 いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。 さて、今日のお客様は……。 吉富敏(66) 作曲家 【交響曲第9番】 ホーッホッホッホ……。」 2: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/06(火) 20:46:21.102 ID:stk3bmGAD 東京、台東区。東京文化会館。館内の壁には、クラシック音楽のコンサートのポスターが貼られている。 ポスターには、白髪交じりの長髪をした初老の作曲家の写真が写っている。 テロップ「吉富敏(66) 作曲家」 コンサートで上演される予定の音楽は、吉富の作った「交響曲第8番」のようだ 大ホール。とある交響楽団により、吉富敏の「交響曲第8番」が演奏されている。 指揮棒を振るパーマ頭の指揮者。楽器を奏でる交響楽団のメンバーたち。重厚な音楽が室内に響き渡る。 観客席で、音楽を聴き入る観客たち。観客の中には、例の男――喪黒福造もいる。 指揮者が持つ指揮棒が止まる。演奏をやめる交響楽団。惜しみない拍手を送る喪黒ら観客。 ある街。緑に囲まれた中に、吉富の仕事場がある。机に向かって、紙に何かを書こうとする吉富。 しかし、吉富の持った鉛筆は動いていない。眉間にしわを寄せ、悩んだ表情をする吉富。彼は、両手で頭を抱え込む。 吉富(交響曲第9番……。私の作曲活動で、ここまでの産みの苦しみを味わったのは初めてだ……) 3: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/06(火) 20:48:15.136 ID:stk3bmGAD 仕事場を出る吉富。吉富は、森の中を一人で歩く。 吉富(それにしても、森は私の心を落ち着かせてくれる……) 山道を歩く吉富の目の前に、喪黒が姿を現す。吉富に話しかける喪黒。 喪黒「こんにちは、吉富先生」 吉富「あなたは一体……?」 喪黒「私ですか?私は先生のファンなんですよ」 「この間、東京文化会館で先生の『交響曲第8番』を聴きました」 吉富「東京文化会館でのコンサート……。JBCフィルによる演奏のですか?」 喪黒「そうです。『交響曲第8番』の重厚深遠な世界観が反映されていて、実に見事でしたよ」 「『交響曲第8番』は、先生がお作りになった楽曲の中でも最高傑作と言えるでしょう」 吉富「『交響曲第8番』が最高傑作……。私にはそうは思えませんよ」 喪黒「どうしてです?謙遜することはないでしょう」 吉富「私の作曲家人生の最高傑作は、やはり来るべき交響曲第9番であるべきでしょう」 4: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/06(火) 20:50:15.025 ID:stk3bmGAD 喪黒「交響曲第9番ですか。交響曲第9番を作るのは、作曲家の夢と言っても過言ではありませんし……」 「歴史上の偉大な作曲家を見ても、交響曲第9番が最高傑作となった人物が多いですからねぇ」 吉富「そうですよ。ベートーベンも、ドヴォルザークも、シューベルトも交響曲第9番が最高傑作となったのですから」 喪黒「ええ。マーラーの最高傑作である『大地の歌』は、彼の9番目の交響曲ですし……」 「ブルックナーだって、もしも交響曲第9番を完成させていれば、間違いなく彼の最高傑作となったでしょう」 吉富「その通りです。交響曲第9番とは作曲家にとって、最後の交響曲にして最高傑作という特別なものになるわけですから……」 喪黒「先生が交響曲第9番を完成させたならば、歴史に残る最高傑作になるでしょうねぇ」 「第9番の完成、心から楽しみにしていますよ」 吉富「まあ、そのことなんですけど……。今の私は、その交響曲第9番の作曲に取りかかったところなんですが……」 喪黒「おそらく、音楽の作曲があまりはかどっていないのでしょう」 吉富「はい。それどころか、構想すら頭に浮かんでこないのです」 喪黒「そうですか……。私はファンの一人として、そんな先生のお力になりたいところですよ」 喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。 続きを読む