転載元 : http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1433255424/ 1: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/02(火) 23:30:24 ID:JYlpEjXk (クソ短い上に地の文のアレがアレだからキヲツケテネー) 9: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/11(木) 16:06:45 ID:DaKsU3Kk 「ほむらちゃん、おまたせっ」 三年ぶりに会ったまどかは、髪型を除いてほとんどあの日と変わっていない。十二年前、私が世界をゆめまぼろしにした、あの日と。 私をまどかのいない世界に縛り付けた赤いリボンは、一本はまどかのポニーテールを結い、一本は私の左耳辺りに括られている。 「私も今来たところ。……久しぶりね、まどか」 まどかと同じ大学を卒業し世界の安定を見た私は、まどかから離れようとした。もう私の『監視』は必要ないと踏んだのだ。住所を変え、電話番号を変え、メールアドレスを変え──けれどまどかはたった三年で私を探し出してみせた。それは世界の意思か、或いは分かたれたリボンが引き合ったのか。 「それで、どうしたの? 急に会いたいだなんて」 電話が鳴ったのは今日の夕方。忘れるはずもないまどかの番号からの着信に、私の胸は喜びに震えてしまった。 「えっ、えと、特に用事はないんだけど……ほむらちゃん、何も言わずにいなくなっちゃったから。ずっと、会いたくて」 薄く涙を浮かべながらそう言うまどかに、私は既視感を覚えていた。これはそうだ、大学の卒業式の日、私にリボンをくれた時の目と同じ。「あの日からずっとつけてるけど……やっぱりこれは、ほむらちゃんに持っててほしい」と言って、二本とも差し出してきた時の声と同じ。 「ごめんなさい……訳があったの。今は、言えないけれど」 「ううん、いいの。理由も、聞き出そうなんて思わない」 「ありがとう。……それで、今日どうするかなんて……」 「あぅ……考えてなかった、です」 「そうよね……それじゃあ、お酒でも飲みに行きましょうか」 頷いた彼女の微笑みは、「片方でいいわ、これならお揃いだもの」と言ってリボンを一本受け取った時と同じ。本当に離れるつもりならそれを受け取るべきではないと、私は知っていた。 10: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/11(木) 16:07:19 ID:DaKsU3Kk 「わあ……さすがほむらちゃん、おしゃれなお店知ってるんだね」 路地裏からさらに裏に入ったような所にあるそのバーは黒羽といった。初めは店名が他人事とは思えずふらりと入ってしまったが、経営が成り立っているのが不思議なほど人がいない所や、店名をクロハネではなくコクウと読む辺りが気に入っている。……もちろんお酒も美味しいのだけれど。 「別にすごいことじゃないわ。……入りましょう?」 ドアベルが妙に暗い音を立てる。無口なマスターが、磨いていたグラスを置いて慇懃に一礼した。いつも座るカウンターの端は避けてテーブル席につくと、いつの間にカウンターから出たのか、マスターが影のように現れてお水とお手拭きをくれた。 「あ、あのぅ、ほむらちゃん」 「なあに?」 「わっ、わたし、こういうお店はじめてで、一体どうしたらいいやら……!」 「ふふ、そんなに硬くならなくても大丈夫よ。……そうね」 少し考えてから軽く手を挙げて、ベリーニとエル・ディアブロ、ドライフルーツの盛り合わせを注文する。マスターは小さくも恭しく頷き、グラスをふたつとお酒の瓶をどこからともなく取り出した。グラスの中身を美しくステアする手元に釘付けになるまどか。蜂蜜色の照明に照らされたまどかの瞳はまるでかの女神のようで、私はこっそり息を呑んだ。 11: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/11(木) 16:08:33 ID:DaKsU3Kk 控えめなヴォリュームで鳴るジャズを聴き流しながら壁にかかった振り子時計を眺めていると、マスターが音もなくお酒とドライフルーツを運んできた。私たちはキスをするみたいに小さく乾杯して、それぞれのお酒に口をつけた。 「あ、これ、おいしい……」 「やっぱり。好きそうだなって思ったの」 「わたしが桃好きだって知ってたの?」 「ううん、なんとなくよ」 「ほむらちゃんのは?」 「エル・ディアブロ──カシスのお酒ね」 それから私たちは、飲み物を一口ずつ交換したり、ドライいちじくにしたつづみを打ったりしながら、他愛のないことを喋った。一人暮らしがさみしいのか、ついにエイミーを飼い猫にしたらしいことを教えてもらった。まどかは二杯目のベリーニを少しずつ飲んでいて、私は砂糖を垂らしてもらったアブサンを舐めている。そして、──酔ったのだろうか? おかしな事を口走っていた。 続きを読む