転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1542066953/ 1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/13(火) 08:55:53.63 ID:/398vgmN0 ※湊友希那「ねえ、リサ」と同じ世界の話です 一部に地の文があります 2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/13(火) 08:56:40.65 ID:/398vgmN0 今井リサ(左手でクラッチレバーを握る。左足でシフトペダルを踏み込む) リサ(カコ、と軽い音がしてギアが1速に入った) リサ(ぼんやりと見上げていた信号が青になるのを確認してから、軽く右手のアクセルを捻って、クラッチを繋げる) リサ(アタシがまたがる125CCのバイクがエンジンから軽い音を立ててタイヤを転がした) リサ(ゆるゆると加速するバイクとアタシ) リサ(秋の夕風を切って、見慣れない街の情景が次々と過ぎていく) リサ(夕陽に長い影を作る歩道橋、寂しげにささめく木々、そして往来を歩くまばらな人影) リサ(被ったジェットヘルメットからそれらを自然と目で追っている) リサ(そうしているうちに次の信号に引っかかり、シフトを落として減速して、列を成す車の最後尾に停車した) リサ(そしてまた、飽きもせず凝りもせずに、アタシはキョロキョロと辺りを見回している) リサ(……こんなことをしていて何になるんだろう) リサ(そんな思いを抱えながら) …………………… 3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/13(火) 08:57:32.15 ID:/398vgmN0 リサ(辿る道は数あれど、辿る記憶はただひとつ) リサ(やがて薄れて捨て行くであろう感傷を、アタシは後生大事に抱えて生きている) リサ(あの日) リサ(ロゼリアがロゼリアでなくなって、そして、大切な幼馴染を傷付け、遠ざけてしまったあの日からずっと) リサ(……全部がきっと上手くいくんだと思っていた) リサ(人と人とのことだから時にはすれ違いもあって当然だし、そういう積み重ねがまた絆という不明瞭で不確かなものを確固たる存在にしてくれるんだ……なんて、そんなことを思っていた) リサ(だからこそアタシは頷いたんだ) リサ(変わらなければいけない、という言葉に) リサ(……けど、アタシたちは選択肢をどこかで間違えてしまった) リサ(変わろう。変わらないとダメなんだ) リサ(ただその思いだけが空回りして、友希那に別れを告げた。距離を置こうって、これも必要な痛みなんだって無理矢理自分を納得させて) リサ(その結果は惨憺たるものだった) リサ(アタシのその行動は、大切な人を傷付けて、そしてロゼリアというバンドに修復不能な亀裂を生じさせるだけだった) リサ(……まだロゼリアの――元ロゼリアのみんなとは親交がある) リサ(取り留めないことで連絡を取り合ったり、一緒にどこかへ行ったりなんだりと) リサ(ただひとり、行き先を告げずにどこか遠くへ行ってしまった友希那を除いて) リサ(「変わらなければいけない」……そう言っていた紗夜が責任を感じて、アタシとあこと燐子は、土下座をするような勢いで謝られたこともあった) リサ(アタシたちがそれに返したのは「誰が悪いとか、そういう話じゃないよ」という慰めの言葉だった) 4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/13(火) 08:58:24.64 ID:/398vgmN0 リサ(そう、誰のせいとか、誰が悪いとか、そういう話じゃないんだ) リサ(きっとなるべくしてなってしまったことなんだ) リサ(そうやって、みんながみんな、自分自身に言い聞かせるようにその言葉を吐き出していたのを酷く鮮明に覚えている) リサ(出会いがあれば、いつか別れも訪れて当然だ) リサ(物語には終わりがあるから美しくて、命が永遠に潰えないのであれば、きっと感動的な歌やドラマもこの世には存在しないんだ) リサ(……けど。でも。だけど。そうだとしても) リサ(アタシはその世の中の常識に、何度も何度も否定の言葉を付けて、友希那の影を探している) リサ(高校を卒業する前にバイクの免許を取って、中古の125CCのバイクを買ったのもそのためだ) リサ(『遠くへ行ってみたい』『あれば便利だから』『そういうのってちょっとカッコいいじゃん?』) リサ(上辺に被せた言葉を捲れば、出てくる本音は『友希那と会いたい』) リサ(自分勝手に別れを告げたくせに、大切だった幼馴染の影を未練がましく探している) リサ(遠い街のどこかに友希那のカケラがあるんじゃないか、ふとした瞬間にそれに触れることができるんじゃないか、なんて思いながら) リサ(普通に考えれば会えるわけなんてないのに、もしかしたら、という気持ちが捨てられないんだ) リサ(大学では軽音楽サークルに入って万年人手不足のベーシストを続けているし、ひとりの部屋でつま弾くのはいつか友希那が作った曲ばかり) リサ(バイクだってそうだ。あまり詳しくはないけど、ただ音楽メーカーとして聞いたことがあるメーカーのものを、深い青色をしたボディーにどこか友希那の面影を感じて買った) リサ(そしてそのバイクで休みの日にやることは、どこかに友希那との繋がりが落ちていないか探すことだけ) リサ(いつまでもいつまでも、そんな情けない未練を引きずって歩き続けているんだ) リサ(……あの日からずっと変わらず、今井リサの20歳の秋はそうやって虚しく過ぎている) …………………… 続きを読む