転載元 : http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1540043369/ 1: ◆U2JymQTKKg 2018/10/20(土)22:49:29 ID:qcp TB第3弾「劇場ミステリ」が明後日からなので、投票期間中に書いた応援ドラマをば。 つむつむは出ないけど、百合子とまつり姫は出ます。 2: ◆U2JymQTKKg 2018/10/20(土)22:51:14 ID:qcp 「到着致しました、七尾様」 空想の大海原で船を漕ぐ私の耳を落ち着いた声が撫でる。 「……七尾様」 今度は少し強い声。目の前に広がっていた青い空が徐々に暗い車内へと変化していく。 「到着致しました」 3度目の声で目の前から海が消える。ぼやけた視界のまま声のした方に顔を向けると開いたドアの向こうからこちらを覗く顔があった。 くしゃっとした髪の毛に端正な顔立ち、真っ黒のスーツの胸元からはパリッとしたノリの利いたシャツを覗かせている真壁さんと目が合ったところで私はようやく今の状況を理解した。 慌てて通学カバンを手に取り、スカートの皴を伸ばすことなく車から降りようとすると、スッと目の前に手が伸びてくる。 3: ◆U2JymQTKKg 2018/10/20(土)22:53:51 ID:qcp 「お手を」 ドギマギしつつ私は真壁さんの手を取って車外へと出た。ひんやりとした手に自分の手を握られたまま顔を上げ、私は眼前の目的の建物に感嘆の声をあげる。 白い石造りの建物には正面に大きなステンドグラスが嵌められており、冬の日差しに照らされた七色の蝶が描かれている。屋根の上の煙突からは白い煙が上がり、屋根のてっぺんには風見鶏が風を受けてゆっくり回っている。 視線を正面に移すと、私の背丈の倍はありそうな両開きの重そうな扉。木で出来たその表面には蝶の意匠が凝らされ、羽には螺鈿が散りばめられている。 蝶は扉と扉の境目を背にして放射状に広がり、今にも飛び立してくるのではないかと思うほどの躍動感を持って佇んでいる。 4: ◆U2JymQTKKg 2018/10/20(土)22:54:36 ID:qcp 視線を扉の上に向けるとこの建物が何のためにあるのかを示す5つの漢字が目に入った。入ろうとするものをこの世ならざる世界へと誘う5つの漢字。 真壁さんは私から手を外し石畳に冷たい足音を響かせて扉の前に進む。金のメッキが施された扉の取っ手を引っ張るとドアに描かれた蝶が中から漏れた光に追い立てられるように飛び立っていく。 「いらっしゃいませ、魅裏怨劇場へ。歓迎致します。探偵・七尾百合子様」 6: ◆U2JymQTKKg 2018/10/20(土)22:56:23 ID:qcp >>5 台詞が抜けてた… 真壁さんの後ろについてランプで照らされる劇場の廊下を歩く。その薄暗さのためか木製の床に響く足音がホラーゲームのワンシーンを思い出させた。 例えば、あの階段の先の角、曲がる直前で急に目の前に長い髪で顔を隠した白い衣服の女性がロウソクを持って…… 「七尾様」 「ひゃいっ!」 「驚かせてしまいましたか。申し訳ございません」 真壁さんは言葉では謝りつつも顔色一つ変えずに淡々と喋る。 「いえ、こちらこそ。あまり、その、こういう場所には来たことがなかったのでちょっと雰囲気に飲まれたというか」 「なんと、それは意外でした。様々な難事件を解決されていたようですので」 真壁さんの言葉が胸にチクリと刺さる。 「量より質ですので」 私が辛うじて返答すると、なるほどと真壁さんは考え込む仕草を取る。 続きを読む