転載元 : http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1538925317/ 1: 名無しさん@おーぷん 2018/10/08(月)00:15:17 ID:A3B 元々別サイトにて投稿していましたが、消されてるっぽいのでここでまた書かせていただきます 地の文が多めですのでお気をつけを 2: 名無しさん@おーぷん 2018/10/08(月)00:23:28 ID:A3B 土をこねることは幸せだ。自分のとりとめのない想いを一つの形にして、誰かに受け取って貰える。私の人生を彩っていたただ一つのこと。 おじいちゃんは厳しくて、簡単に認めてくれない。でも指導に不満を覚えたことは無かった。おじいちゃんはいつだって正しいし、私も妥協なんてしたくなかった。 友達はあまり多くはない。そして趣味の話を共有できる友達は一人としていない。 私とおじいちゃん。世間からまるで離されたように限定されたこの空間で。 それでも。 私は確かに幸せだった。 ……。 あの時までは。 「どうした肇?」 おじいちゃんが私の顔を覗き込む。 いつも通り陶工の時間になり、私はろくろと向き合った。 最近は上手く行かず、怒られることが多くなってしまっていた。壁に当たっている、と言うのだろうか。でも何度も味わってきたことだから。 だから、私は今度も大丈夫、なんて思っていた。 この失敗の連続は成長に繋がるんだって。私は停滞なんてしていないって。 くるくると回る土はどんどん歪になっていく。 わかっている。大丈夫。 おじいちゃんにはまだ納得してもらえないかもしれないけど、私なりのものは作れるはず。 だから、大丈夫。 心で唱えても。 頭ではわかっていても。 手は震え、指は止まり。 遂には、腕に力が入らなくなり。 土は歪な形のまま、その場を回り続けていた。 「体調が悪いのか?」 「……違うよ」 「じゃあどうしたっていうんだ」 わからない。 そんなこと私にもわからない。 わからないよ。 どうして? なんで? 私はこの時、幸せを失った。 3: 名無しさん@おーぷん 2018/10/08(月)00:49:24 ID:A3B プロデューサーさんから連絡を貰ったのは一時間前。約束の時間に、私はプロデューサーさんのいる部屋へとやって来た。 プロデューサーさんは満面の笑みを浮かべていた。 「肇! 仕事だ! 仕事がきたぞ!!」 「えっ? あ、はい!」 プロデューサーさんは仕事がくる度こんな風に大喜びしてくれる。私ももちろんお仕事が貰えるのは嬉しい。でも、それ以上に私のことで喜んでくれるプロデューサーさんのことも嬉しい。 「どんなお仕事ですか?」 「あ、ああ。そうだったな。座ってくれ」 プロデューサーさんから聞いた話はこうだった。 どうやらアイドル特集をとあるテレビ局が行うらしく、その企画の一員としての仕事だそうだ。企画は『苦手なものを克服!』というものだそう。 「肇は苦手なものってなんなんだ?」 「苦手なもの……ですか」 頭を巡らす。 不得意なことなど数えきれない程あるだろうけど、克服しなければならないと考えると当然絞らなければいけない。 「もし嫌だったなら断って構わないぞ」 「い、いえ。やらせて下さい」 アイドルになって早一年。 せっかくもらい始めた仕事を無下にするわけにはいかない。 三分程思考し、一つ思いつくことができた。 「絵、ですかね」 「絵?」 「はい。私は絵を描くことが苦手です。克服できるなら、是非」 「へぇー、意外だな。肇は何でも器用にこなすと思っていたが」 プロデューサーさんは本当に不思議そうな顔をする。そんなこと、ないのに。 「よしわかった。苦手な絵描きを克服だな。頑張れよ!」 「はい!」 こうして私の仕事が決まった。 その後企画会議が進められ、私の苦手克服の具体的な方針が決まった。 期間は二日間。絵の先生がつき、合格とされれば克服したと見なすという。 二日間の内に克服ができなければほとんどカットされてしまう。プロデューサーさんはこの方針に反対していたが、どうやら納得しなければならないようだ。 私はこの条件を呑んだ。せっかくのお仕事だから。何より、真面目に取り組むことは私の得意なことなのだから。きっと克服できるはず。 先生役として選ばれたのは荒木さんだった。 選ばれた理由として、そもそもの絵の実力、そしてアイドル特集という番組の方針から、一人でもアイドルが出た方が盛り上がるからだそうだ。 荒木さんはできれば絵、というより漫画を書いていることはファンには秘密にしたいと言っていたけど、肇ちゃんのためならと企画に参加してくれることとなった。 続きを読む