転載元 : http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1534110621/l50 1: 名無しさん@おーぷん 2018/08/13(月)06:50:21 ID:NLr ・地の文 ・おれは、ポテトだ! 2: 名無しさん@おーぷん 2018/08/13(月)06:51:22 ID:NLr ・ 雨が窓を打つ音と、荒れた息遣いと、場違いに明るいアイドルソング。 今はダンスレッスンの終盤。レッスンルームのどこを見るでもなく、身体に叩き込まれた通りに動いていた。 まるで機械のように。ステップ、ウェーブ、ロール、ステップ、トゥループ…。 汗がじっとりと、視界を曇らせる。 背すじと、すねのあたりが痺れている。 それでも踊り続ける。 頭を空っぽにして、身体を動かしていれば、何も考えずに済む。 17歳の時間が音もなく燃え尽きていることも、その底意地の悪い炎が、私達の未来すらも焼き付くそうとしているじゃないかって、 そんな不安も気づかないふりをしていられる。 あたしはちょうど半年前、渋谷センター街でスカウトされた。 君はアイドルになるんだ。 そう言われた。 決定事項なのか!? そう言い返した…気がする。 でも、今ここにいるのは間違い無く自分の意思だ。誰に強制されたわけじゃない。 3: 名無しさん@おーぷん 2018/08/13(月)06:52:04 ID:NLr ただ、あの頃のあたし、ちょっと見通しが甘かったな…。 スカウトされたからって、トントン拍子にデビューってわけじゃなかった。 なにせあたしは、若干運動不足で、お腹の肉がゆる~くつまめるインドア女子…だった。 ダンスは、体育の授業でやった程度。歌の経験は小学校の合唱会と、月に2回のカラオケ。 トークや演技に至っては、平均以下の自信がある。 アイドルの卵どころか、自分をアイドルだと思い込んでいる一般人ver2.31。 誇れることといえば、我慢強いことくらいか…。 レッスンルームのメンバーは、あたしが入った頃とはだいぶ様変わりしている。同期で訓練所で入った子は、大半がいなくなった。 レッスンは辛かった。最初の頃は筋肉痛を家に持ち帰っているようなもので、今でも、慣れてへっちゃらとは言い難い。 夜20時、ダンスレッスンが終わり、解散。 みんなは言葉を交わさない。 元々は、ライバル同士っていう気負いがあったんだと思う。あたしはそうだった。でも今は単に、余裕がない。それだけ…。 4: 名無しさん@おーぷん 2018/08/13(月)06:52:48 ID:NLr 学校が終わった後のレッスンは、いつも帰りが遅くなる。 ワガママでアイドル目指してる手前、親の手を煩わせるのも何だかイヤで、夕食はコンビニで済ませるようになった。 最近の神谷奈緒の原材料の3割(夕食分)は、コンビニ由来。コンビニ食でも、それなりに栄養バランスを考える。吹き出物ばっかになったら、いくらダンスや歌がうまくっても台無しだもんな。 なんてさ、ほんとは今、レジ前のホットスナックに目移りしてる。 『ホットスナック購入でアニメグッズが当たる~~』 世間は17歳の小娘の事情なんて知ったこっちゃない、そういうわけだ。 ちょっと前は深夜にこっそり家を抜け出して、チキンとかフライドポテトをお供にアニメを観てた頃がなつかしい。 いつの間にか、カードキャプターさくらの中学生編はじまってるし…。 そう考えていると、声がした。 「フライドポテト2個」 その方向を見ると、“一応”同期のアイドル候補生がいた。 北条加蓮。 一応、なのはレッスンに顔を見せないからだ。 別に、あたしとしてはライバルが1人減るわけで、まったく、ちっとも、特別気にしているわけじゃない。 ただ、もったいないなとは思う。 初めてレッスンに現れたときの、気だるげな態度は気に入らなかったけど、 加蓮は他の候補生達とは“もの”がちがう。 ルックスがいいってことだけじゃない。 問題…そう、あたしを含めた候補生達にとって問題だったのは、加蓮が歌もダンスも、人間離れ早さで上達していくこと。 加蓮は以前からレッスンを休んでいたけど、それでも、次に現れたときには、いつもあたしたちの先を行っていた。 だから、こいつがアイドルにならないのはもったいない。競争相手なのにそう思う。ほんとうに、自分でも不思議だけど。 続きを読む