転載元 : http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1386422650/ 1: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/07(土) 22:24:10 ID:UG73EFGE 1 年が明けてすぐのことだ。 その日もいつもどおりの1日が終わるはずだった。 楽譜に目を通しているとき、急に音が聞こえなくなった。 そして、激しい眩暈に襲われた。 床に這いつくばり嘔吐を繰り返す。 世界が回る。 また嘔吐感が込み上げてくる。 翌朝病院に行き、稀な両側性の突発性難聴だと診断された。 突発的な難聴なんて、すぐに良くなるだろう。 しかし薬物療法に効果はなく、失った聴力が回復することはなかった。 専門の医師がいると聞けば紹介状をもらい、入院して最新の医療を試みる。 しかし、膨らむのは絶望ばかり。 消えていく、バイオリニストとしての未来。 ソロコンサートの夢。 両翼をもぎ取られた鳥は、二度と大空を羽ばたくことなんて出来ないんだ――。 所属していた楽団を辞め、いつしか家族や彼女とも音楽のことは話さなくなっていた。 2: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/07(土) 22:30:05 ID:UG73EFGE 2 それから季節は巡り、再び冬。 世間ではクリスマスがどうとか賑わう時期になっていた。 ブーン、ブーン。 こたつに入って横になっていると、スマホのバイブが振動した。 着信がすぐに分かるように、常に身に着けている。 どうやら、彼女からメールが届いたようだ。 件名:今日は 本文:クリスマス・イヴだね♪ 夕方、ケーキ焼いてくよ。^^ 中途失聴の俺なんか別れてしまえばいいのに……。 液晶を見詰め、自嘲気味に笑った。 3: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/07(土) 22:39:57 ID:UG73EFGE 病状が最悪の経過をたどり入院していたころ、俺はひどく荒れていた。 しかし彼女がいてくれたおかげで、現実を受け入れられるようになった。 彼女が支えてくれていなければ、今頃は自暴自棄になっていただろう。 だから余計に考えてしまうのだ。 本当に俺で良いのか? 健常者の男のほうが相応しいはずだ、と。 それでもメールを返すのは、彼女に一緒にいてほしいからだった。 続きを読む