スタンドの応援はプレーヤーを勇気づけるが、一方で選手たちを傷つけることになりかねない“もろ刃の剣”だ。 日大三(西東京)は15日の2回戦で奈良大付に8-4と快勝したが、小倉全由監督は「あれはイヤですね…」と苦り切った表情を浮かべた。 5点を追う奈良大付の9回の攻撃。1死から代打・木平(きのひら)が左前打で出塁すると、奈良大付応援団が今夏から導入した新応援歌『青のプライド』が響いた。 日大三の主将・日置航内野手(3年)は「奈良大付の初戦で見た。あの曲で球場の雰囲気が一変する。 浮足立たないように準備していました」というが、盛り上がりは予想を超えた。 三塁側アルプス席だけでなく、球場全体が呼応し手にしたうちわを応援歌のリズムに合わせてたたき鳴らした。 1死一塁から代打・吉田の内野安打で一、三塁。 次打者のゴロを2番手の河村唯人投手(3年)が二塁へ悪送球して奈良大付が1点を返すと、お祭り騒ぎは最高潮に達した。 マウンドにいた河村は「光星と東邦の試合がずっと頭をよぎっていました」と明かす。 一昨年夏の甲子園2回戦で、東邦(愛知)が八戸学院光星(青森)を相手に5-9の9回に5点を挙げて逆転サヨナラ勝ちした試合のことだ。 このときは観客がタオルを振り回して逆転劇への期待をあらわにした。 自宅でテレビ観戦していたという左腕は「投手が完全に追い込まれた表情になっていた。マウンドで『自分もいま、ああなりかけている』と思いました」 ショートを守る日置主将も完全アウェーの状況に追い込まれていた。 「正直『俺たちこんなに嫌われてるんだ』って気持ちが萎えかけました。河村がストライクを取っても、拍手してくれるのは一塁側のアルプスだけ。 うちわをたたく音ってグラウンドまでめちゃくちゃ響くんです」 後続を右飛、空振り三振に打ち取り、辛くも逆転劇は許さなかったが、校歌斉唱の際、勝った日大三ナインの何人かが涙を流していたことが重圧の大きさを物語った。 劣勢のチームに終盤だけ肩入れして応援する風潮は近年の甲子園でブームのようだ。 タオルを回しての応援こそ、大会本部からの自粛要請で今大会は見られなくなったが、今度はうちわ。 タイブレークで逆転サヨナラ満塁弾を浴びた星稜(石川)、花咲徳栄(北埼玉)に追い詰められた横浜(南神奈川)からも「球場全部が敵に見えた」と失意の声が聞こえた。 甲子園のファンは判官びいきといわれるが、ドラマチックな展開を期待するあまり、選手たちに過度で不要な重圧を掛けすぎているのが現状ではないだろうか。(片岡将) https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180816-00000001-ykf-spo 続きを読む