転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1533826835/ 1 : ◆TOYOUsnVr. 2018/08/10(金) 00:00:36.15 ID:OipDTOFK0 周囲を忙しなく動き回る何かの気配で目が覚めた。 のっそりと上体を起こし、まだ重い瞼を瞬かせる。 私の周りをうろちょろとしていた気配の主は十年来の相棒、ハナコだった。 ハナコは私が小学生の頃にこの家にやって来た妹分であり、相棒でもある。 彼女はヨークシャテリアとミニチュアダックスフンドの血を半分ずつ持ち、唯一無二のもふもふ感を誇る。 父による命名であり、曰く、花屋の子だからハナコだとか。 この話を聞いたときは、もしかすると私の名前がハナコになっていたのではないか、と思ったものだ。 そして、ハナコは毎朝こうして私を起こすべく、寝ている私の周囲をうろちょろとする。 時にはお腹の上に乗って来たり、顔を舐めたりするという、そんじょそこらの目覚まし時計にはない機能まである。 人生の半分以上をそうして過ごしたことから、自然と朝には強くなった。 寝坊であるとか、二度寝であるとか、そういった類のものと私が無縁であるのは、ハナコの働きに因るものだ。 2 : ◆TOYOUsnVr. 2018/08/10(金) 00:02:04.86 ID:OipDTOFK0 ○ ハナコが私を起こす理由。 それは、朝ご飯と散歩の催促だ。 私が起きたと見るや、彼女は一層うろちょろを強化して、ベッドの上を跳ね回っている。 「わかった。わかったから」 軽く抱き上げ、床へと下ろす。 のそのそした私の足取りを、爪とフローリングの床とが当たって奏でられるちゃっちゃっ、という小気味いい音が追ってくる。 階下へと降り、リビングルームを通り過ぎてキッチンに向かう。 キッチンの戸棚から、ドッグフードを取り出して餌皿へと注いでやった。 ハナコが朝ご飯を食べている間に、身支度を済ませるため、私は洗面所に行くとしよう。 3 : ◆TOYOUsnVr. 2018/08/10(金) 00:02:43.74 ID:OipDTOFK0 ○ 髪を束ねて、ひんやりした水で顔を洗う。 手の感触を頼りにタオルを掴んで、ぽんぽんと拭った。 完全に覚醒した頭で、これからの予定を指折り確認する。 ダイニングテーブルに用意されているであろう朝食を摂って、それからハナコの散歩。 帰ってきたら開店準備をしている母を手伝って、お店番をする。 とりあえず、午後まではこんなところか。 簡単に化粧をして、パジャマを洗濯機に放り込んで洗面所を出た。 4 : ◆TOYOUsnVr. 2018/08/10(金) 00:03:20.55 ID:OipDTOFK0 ○ 着替えを済ませ、再び私が戻る頃にはハナコは既にご飯を食べ終えていて、散歩はまだか散歩はまだかと私の足元でくるくる回り始める。 もうちょっと待ってね、と頭を撫でると彼女は目を細める。 その仕草がたまらなく愛らしく思え、抱き上げて頬ずりしたところ、今度は鬱陶しそうな顔をされた。 そうして私はハナコを抱えたままダイニングテーブルへと行き、席に着く。 机上には、食パンとベーコンにスクランブルエッグ、そしてオレンジが一切れが用意されていた。 それらを私がもぐもぐとしている間、ハナコは隣の席でずっと尻尾を振っている。 おこぼれがもらえるということを分かっているからだ。 甘やかしてはいけないとは思いつつも、このつぶらな瞳による攻撃を無視できた試しは、これまで一度としてない。 例に漏れず、今日も私はベーコンをひとかけら献上してしまうのだった。 続きを読む