転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1524569832/ 1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/04/24(火) 20:37:12.44 ID:25rQ95o00 最初の出会いは誰にとっても普通で、私にとっては驚きから始まった。 「あの、鷹富士さん、ですよね」 自販機で飲み物を買ってる時だった。スポーツドリンクを買うためだったのだけど、コーヒーも飲みたかった。だから、二つ並びの自販機でこっちを選んだ。 当たりつきだったから。 振り返った時、最初は年上かと思った。 身長は私より低いし、体つきも着ている可愛いゴシック調の服も子供らしかったのに。 その瞳に余りに愁いが深く染み込んでいたから。 もちろん、私だってその考えをすぐに改めた。 「白菊……ほたるちゃん、ですよねー」 私の言葉に、ちょっとだけ瞳が膨らんだ。嬉しそうに、そして微かな尊敬を含めて。 (じゃあ、やっぱり) 記憶違いでは無さそうだ。 白菊ほたる。十三歳にして私より芸歴が長くて、運の悪さで有名な子。 その意味で、運の良い私と真逆だ。 2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/04/24(火) 20:38:42.34 ID:25rQ95o00 もろもろを置いておいたとしても、私がお姉さんだ。 「ほたるちゃん、なにか飲みたいものありますか?」 「えっと……?」 言葉の意味を捉えかねてるようだったから、尋ね返した。 「飲み物、奢ってあげますね」 驚いたほたるちゃんに、私の口元は微笑みが強くなった。 「で、でも」 「ほら、早く決めないと、運が逃げちゃいますよ?」 間違ったことは言っていない。当たりの表示が出てから少しの間に次の商品を選ばなければ、当たりは取り消しになってしまうから。 「えっと、あっと」 私はスポーツドリンクのボタンを押して、くじ引きのピピピという音を聞きながら、ほたるちゃんの答えを待った。 「じゃ、じゃあ。ココアを」 可愛いチョイスだ。コーヒーでも甘い炭酸飲料でもないのが雰囲気に合っていた。 「ココアですねー」 私は自販機に顔を戻して、首を傾げた。 選択用の、赤い点滅が現れない。 どうしたのだろう。不思議に思ってクジの結果に目を落とす。 外れていた。 3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/04/24(火) 20:40:18.99 ID:25rQ95o00 驚いたけど、たまにそういう事もある。 「ココア、ですよねー」 「?」 お金を入れなおして、ココアを選択して。 また外れた。 「鷹富士さん?」 ほたるちゃんの声に、私は我に返った。 「かこ、って呼んでくださいよ」 誤魔化すためだったけど、きっと気づかれてはいない。 「は、はい……えっと、か、茄子さん」 微かに緊張している様子のほたるちゃんに、私はココアを手渡した。 私の胸の内の淡い高まりに、ほたるちゃんは気づかなかっただろう。 4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/04/24(火) 20:41:32.03 ID:25rQ95o00 電子ケトルのお湯が沸いた。打ち上げのビンゴで貰ったケトルだった。 同時に、トースターからパンが二枚飛び出した。これも、一人暮らしを始めた時にくじで貰ったトースターだった。 でも、パンはちゃんと買ったもの。 (いけない) 焼き終わる前に起こすべきだった。こういうリズムに、私はまだ慣れていない。 そんなことが楽しくて、少し笑みながら居間を出た。 都内のマンション。色々な事情が重なって、私は運よくこの4LDKを安い値段で借りていた。眺めのいい部屋で、晴れている日には遠くに富士山を視ることができる部屋だった。 その内の一室。かつては物置に使っていた部屋に入る。 閉じられたカーテンの隙間から洩れる光が、薄暗い室内を照らしていた。 今では奇麗に整理され、真新しい家具が部屋の中を飾っていた。立派ではないが、殺風景でもない程度のシンプルな部屋。カーテンにクローゼット、小さなテーブル。そしてベッドが一つ。 このベッドはこだわった。柔らかいのもいいけど、返って体に負担になることもあるというから、柔らかすぎず、堅すぎず。 触ったり、一緒に横になったりして一つ一つお店で確かめた。 しっかり吟味した甲斐はあったようだ。寝心地は良さそうだ。 彼女は安心に満ちた、とても穏やかな寝息を立てていた。 続きを読む