阿良々木暦「ありすリコリス」

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1 : ◆8HmEy52dzA 2015/01/16(金) 20:03:31.74 ID:6UJ3zAla0

・化物語×アイドルマスターシンデレラガールズのクロスです
・化物語の設定は続終物語まで
・続終物語より約五年後、という設定です

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3 : ◆8HmEy52dzA 2015/01/16(金) 20:14:38.91 ID:6UJ3zAla0




001



仕事には、言わずもがなやり甲斐というものが必要不可欠だ。
人生の大半を占める仕事が誇りも矜恃も持てないものであれば、モチベーションの維持はもちろん、毎日が苦痛と化してしまう。

とは言え働くことを美徳とする日本だ。
仕事は仕事、と割り切ることも可能だが、それではあまりにも自動的で人間味に欠ける。
人間は社会の歯車に違いはないが、意志を持たない無機質な道具ではないのだ。
必要不可欠なものではないとは言え、日々を過ごす上で自らの仕事にやり甲斐を持つことは人生を彩るという意味でも非常に重要ではないかと思うのだ。

「次の仕事はこのメンバーで決定した。何か質問はあるか?」

小さめの机を四方から四人で囲みながらのミーティングだ。
メンバーは櫻井、結城、橘、そして僕を含めた四人である。

「別にメンバーに文句はねえけどよ……なんか、頭良くねえオレでも嫌な予感がするぞ……」

上着のポケットに手を突っ込みながら椅子を傾け足を組み、フーセンガムを膨らませるという不遜とも取れる態度を取る彼女は結城晴、十二歳。
男勝りの態度に反して外見には素質が見え隠れし、数年後が非常に楽しみなアイドルである。加え、僕の生涯において初の俺っ子である。

猫も一応、羽川の身体を借りているとは言え俺っ子だが、猫はオスなので本質的な所で異なるのだ。
ここは非常に大事だよ。

「人選にプロデューサーの良からぬ意図を感じますわ……」

紅茶のカップで両手を温めながら漏らす彼女は櫻井桃華、十二歳。
彼女も僕の人生において接する機会のなかった、お嬢様である。

フィクションにおけるお嬢様のテンプレートのように高飛車で上から目線、ということもなく、自らの実力でのし上がって行こうとしているとてもいい子だ。
出来ることならば彼女の執事となって一生を彼女に尽くしたいと思う程である。
美少女の執事。
まさに男の夢だ。
彼女の為ならば高所からの紅茶の淹れ方もマスターしよう。

「プロデューサー、まさかとは思いますが個人的な趣味ではありませんよね?」

猜疑の視線と共にこちらを上目遣いで睨んでくるマフラーを身に着けた彼女は橘ありす、十二歳。
年齢にそぐわないそのストイックさと冷静さは、彼女がいかにしっかり者であるかを物語っている。

早く大人になりたい、という想いを持つ子供は多数いるが、橘はその傾向がかなり強い。
その上、何の考えもなく大人への憧憬を抱く子供とは違い、彼女は彼女なりに自分の大人像を持っている。
それらを考慮した上で、橘は早く大人になりたい、と言う権利があると言えよう。

……個人的には橘だけと言わず全員、安部さんのように永遠の十二歳でいて欲しいところだが、そこは時間を操る術を持つ訳でもない僕には叶わぬ願いだろう。

三人の紹介も終え話は冒頭に戻るが、仕事にはやはりやり甲斐が必要なのだ。
ロリ組に囲まれてのミーティング。
アイドルのプロデューサーをやって一番良かったと思える瞬間だ。



4 : ◆8HmEy52dzA 2015/01/16(金) 20:16:43.75 ID:6UJ3zAla0


「……おい、聞いてんのか暦。アンタの趣味で集まったんならオレはいち抜けるぞ」

「何を言うんだ結城。確かに素晴らしい面子だが僕は仕事に私情を挟むなんてことはしないし、相手が誰でも嬉しいぞ」

これは紛うことなき本音だ。
確かに嬉しいことに変わりはないが、僕は世間で忌避されつつある少女しか愛せない罪深き英雄ではない。
何よりまだそこまでの徳は積んでいない。
僕がそんな愛の伝道師を名乗るなんておこがましいにも程があるじゃないか。

「まあ、疑っても仕方がありませんわ。プロデューサーも大人ですから、そんなお間抜けな理由で私達を選んだりはしないでしょう」

ここはひとつ、プロデューサーのお眼鏡に適ったと前向きに考えましょう、と櫻井。
僕としては非常に嬉しい一言だが、言い方に少々棘があるのは櫻井なりのご愛嬌だ。

「何だよその桃華の信頼は……まぁ、オレもそこまでグチグチ言うつもりはねえけどよ」

「わたくしはプロデューサーをそれなりに信頼してましてよ?」

「ま、いいか……お前はどうなんだ、ありす」

「橘、と呼んでください」

「なんでだよ、いいじゃねーかありすで」

「橘、です」

「あーりーすー」

「た、ち、ば、な、です」

「お、お二人とも……」

いかん、これはいかんぞ。アイドル同士の仲が険悪だなんてそんな悲しいことはやめてくれ。

ここは僕が身を挺して防ぐ他ない!

「うおおおおおおおおお!」

「っ!?」

突然奇声をあげる僕。当然ながら、不穏な空気など何処へやらで皆の視線が僕に集まった。

「ぷ、プロデューサー、急にどうしたんですの!?」

「大好きだお前ら! 僕と結婚を前提としない清いお付き合いをしてください!」

両腕を広げて一番近くにいた橘にハグしようと試みる。
丁度いい、この際だ。
大人の恐ろしさを橘の身に思い知らせてやる!
具体的には尻や胸を撫で回すという形でな!

「きゃああああああぁぁぁぁぁぁ!?」

「このっ……変態野郎ッ!」

「はぐぉっ!?」

果たして僕の両腕が橘を覆い尽くすその前に、結城のサッカーで鍛えた黄金の左脚がめり込んだ。

チンだった。

直撃だ。

「ふっ……」

ニヒルな笑みを浮かべつつその場に崩れ落ち、僕は気を失った。
薄れゆく意識の中、三人の声が葬送曲のように耳朶を打つ。

「なんて幸せそうな死に顔なんですの……」

「……はぁ。どうしましょう、これ」

「自業自得だろ、どう見ても」

悔いはない。
僕は、この身を犠牲にしてでも、無為な争いを止めることが出来たのだから。




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