転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407415400/ 1 : ◆8HmEy52dzA 2014/08/07(木) 21:43:30.94 ID:iJvGxYcs0 ・化物語×アイドルマスターシンデレラガールズのクロスです ・化物語の設定は終物語(下)まで ・ネタバレ含まれます。気になる方はご注意を ・終物語(下)より約五年後、という設定です 関連作品 阿良々木暦「ちひろスパロウ」 阿良々木暦「ののウィーズル」 阿良々木暦「あんずアント」 阿良々木暦「ふみかワーム」 阿良々木暦「になショウ」 阿良々木暦「きらりホッパー」 阿良々木暦「かなこエレファント」 阿良々木暦「まゆミミック」 3 : ◆8HmEy52dzA 2014/08/07(木) 22:36:46.43 ID:iJvGxYcs0 002 ■ ◀︎◀︎ ▶︎ かしゃん、と音がした。 こんにちは、川島瑞樹です。 本日はたいへんお日柄も良く、少し暑いくらいです。 赤外線対策に日傘やUVケアを忘れずに。 そんなフレーズが頭をよぎる。 ああ、人間ってどうしていいかわからないと、勝手に自分が落ち着く思考に切り替えるんだ……二十八年生きてきたけれど、知らないことは沢山あるなあ……。 ……うん、感心してる場合でも、現実逃避してる場合でもないのよね。 「どうしたの、お姉ちゃん」 「ううん、なんでもないのよ」 なるべく動揺を隠して笑顔を作る。 なに、女子アナの頃に作り笑顔の練習は飽きるほどにして来た。 今でもどんな精神状態でも一秒で自然な笑顔になれる自信はある。 「そう? そんな感じじゃないけど」 鼻で笑うようにそっぽを向く彼。 僕に隠し事をしても無駄だよ、とでも言いたげだ。 ……生意気ね。 まあ、小学生の男の子なんて、生意気盛りだしいいのだけれど。 おばちゃんとか言い出さないだけ全然いい子だ。 言ったら言ったで殴るけどね。 でも異性の子供と二人きり、という状況がこれ程までに気まずいものとは思わなかった。 なんとなく話題が合わせづらいというか……。 小学生の時、クラスの男子ってどんな話してたっけ。 「ええと……な、何か食べたいものとか、ある?」 「ないよ」 「…………」 川島瑞樹という人間の主観として、そんなに子供は嫌いじゃない方だとと思っている。 シンデレラプロダクションにおいては年下の子が九割以上を占めるし、小学生の子達だって所属している。 彼女たちは皆、私からしたら同じ事務所の仲間であり家族も同然だ。 けれど、やっぱり彼は男の子だからだろうか、舞ちゃんや仁奈ちゃんみたいに上手く接することが出来ない。 4 : ◆8HmEy52dzA 2014/08/07(木) 22:39:47.35 ID:iJvGxYcs0 「ねえ、僕は大丈夫だから早く行こうよ。お姉ちゃん、行きたいところがあるんでしょ?」 困ったことに彼は、道に迷った私を警察へと送り届けることを自分の責務としているようなのだ。 ここまでの経緯を簡潔に記すと、いつの間にかこの街にいた私は、最初に視界に入った彼にここは何処かと聞いたところ、聞いたこともない地名だったため、警察への道を教えてくれるよう頼んだのだ。 そしたら彼が、僕が案内してあげるよ、と言ってくれたのだった。 小学生の子供に迷子扱いされるのも如何し難いものがあるが、私は本気でここが何処かわからないのだ。 迷子の常套句のようで情けないが、気付いたらここにいた、のだ。 携帯も持っていない、ここがどの辺りなのか目安となるものも見当たらない。 日本であることは確かだけれど、そんなもの何の気休めにもならない。 それにしても結構な田舎ね……公衆電話を見たのも久し振りだし、個人のゲームショップらしき寂れた店も先ほど見掛けた。 X箱新発売、なんて広告が未だに貼ってあって少し笑ってしまった。 こういうレトロさはある意味貴重よね。 そんな事より、何か思い出せないかしら……ええと、確か昨日はユニットでのツアーの最終日前で、高橋さんと柊さんと片桐さんの四人で軽くお酒を飲んで……。 柊さんと片桐さんはウワバミだから飲むにつれて上下するテンションの変遷について行くのが大変なのよね。 ……ダメだ、思い出せない。 飲み過ぎて記憶を失った? いや、この年にもなれば嫌でもお酒の飲み方くらい覚える。 大学時代じゃあるまいし、ライブの前日に記憶が無くなるまで飲むなんてやる筈もない。 アイドルとしてあるまじき行いをしたような記憶はない……と思う。 柊さんたちもいたことだし、万が一そうなりそうになったら止めてくれるだろう。 となると、考えられるのは夢……かな。 飲んだ割にはお酒も残っていないみたいだし、その説が一番有力な気がしてきた。 飲む前にウコン液は飲んだけれど、お酒を飲んだ次の日は大抵、少し頭が痛かったり喉が渇いていたりするものだ。 夢かぁ……でもこんなに意識がはっきりとしている夢なんて、あり得るのかしら……。 「お姉ちゃん、この辺の人じゃないよね」 「え? え、ええ。そうね」 いきなり話し掛けられ狼狽してしまう。彼は彼なりに、見知らぬ土地に迷い込んだ私を気遣ってくれているのかも知れない。 だとしたら随分と将来が楽しみな子だ。 「学校の名前とかも思い出せない?」 「学校?」 「お姉ちゃん、高校生くらいでしょ? ……違うの?」 「あら」 嬉しいことを言ってくれる子じゃないの。 いくらまだお若いですよ、と言われようと十代の頃に戻れないのは自分が一番よく知っている。 さっきの発言からもお世辞を言うような気の利く子には見えないし、もしかして、ひょっとしたら本当なのかしら。 最近始めたルイボスティーとフルーツのアンチエイジングが効いたのかしら。 「お姉さんはこれでも二十歳越えてるのよ」 「……僕が子供だからって嘘をついちゃいけないよ、お姉ちゃん。どう見たって未成年じゃないか」 「わかるわ!」 ああ、なんだろうこの気持ち。 この子の為なら何でも買ってあげちゃいそう。 ホストに貢ぐ女の人の気持ちって、こんな感じなのかしら……。 夢じゃないか、と頬をつねってみるけど、やっぱり痛かった。 言われてみるとお肌が十代の頃に若返った気がする。 身体も軽い。 お腹も空いてきた。 5 : ◆8HmEy52dzA 2014/08/07(木) 22:41:17.26 ID:iJvGxYcs0 「……じゃなかった。ありがとう、えっと」 そういえば名前も聞いていなかった。 「私、川島瑞樹っていうの。君は?」 「こよみ。阿良々木暦」 「え?」 阿良々木暦。 一度聞いたらそう簡単には忘れられない奇妙な字面のその名前は、偶然にも私の担当プロデューサーと同姓同名だった。 ちょっと待って。 そういえば彼……今、阿良々木暦と名乗った少年は、あまりにもプロデューサーと似通いすぎている。 ぴんと天を突くアホ毛、やる気のなさそうな厭世家のような瞳、全体的に脱力感溢れる雰囲気。 プロデューサーの小学生時代は、きっとこんな感じだったのではないだろうか。 「ちょっと……嘘でしょ」 「?」 怪訝な顔をする阿良々木君を後目に、近くにあった公園のトイレへと駆け込む。 気のせいじゃない。 肌がつるつるなのも、心なしか体調が良すぎるのも、総じて身体が軽いのも。 「瑞樹姉ちゃん、大丈夫?」 「…………」 急に駆け出した私を心配してくれたのだろう。 女子トイレだからか、遠慮気味に入口から顔だけ覗かせていた。 「……ねぇ阿良々木君、阿良々木君、何歳?」 「僕? 十歳だけど」 それがどうかしたの、と首を傾げるその様子は、年相応に可愛かった。 一縷の望みを託し、最後の質問を口にする。 「阿良々木君……今、西暦何年?」 「XXXX年だよ」 手洗い場の鏡に映っていたのは、如何にもガリ勉です、と全身で主張しているような三つ編みの少女の姿。 十三年前、高校に入学したばかりの、私の姿だった。 きゅるきゅると音がする。 ■ ▶︎▶︎ 続きを読む