転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1531436873/ 1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/13(金) 08:07:53.80 ID:eCrKDArS0 渋谷凛はいわゆる不良のレッテルを貼られている。 高校に入学したばかりの4月、いきなり制服を着崩し、ピアスを開けて堂々と職員室の前を歩く姿に多くの生徒が恐れおののいた。 顔はすこぶる美人であったが愛嬌にやや欠け、人前では滅多に笑顔を見せなかった。 そのうえ曲がったことが嫌いな性質で、偉そうにふんぞりかえる先輩や教師どもにしばしば反発的な態度を取ってみせた。 クラスでは無駄に群れることを好しとせず、授業は真面目に聞いていたものの質問を当てられそうになると思い切りガンを飛ばすので教師間でも恐れられていた。 結果、友人が一人もできないまま高校1年の夏休みを迎えたのである。 (あれ? もしかして私、友達少ない……?) 凛がその事実に気が付いたのは夏休み明けの初日、二学期始業式の日であった。 教室全体が妙に和気藹々としている。 凛はふとイヤホンを外して周りに注意を向けた。 なにやらクラスメイト同士、夏休み前よりも一層親密な様子である。 窓際の席で孤独に音楽を聞き、ぼうっと窓の外を見ている生徒は凛の他に誰もいない。 凛は内心ひどく動揺し、いまさらになって慌てた。 しかし慌て始める頃にはもはや手遅れなのが常である。 (……友達、作ったほうがいいのかな) 夏の終わりの空をぼんやり眺めながら、凛はひとりそんなことを思った。 2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/13(金) 08:09:47.99 ID:eCrKDArS0 ※ 今この時点では無関係な人物について、先の話をスムーズに進めるためにあらかじめ説明しておこうと思う。 渋谷凛の通う高校に島村卯月という生徒がいる。 彼女は二年生で、学業は並、容姿も並、ただし友人には恵まれ、可もなく不可もない学生生活を送っている。 家族構成や趣味、交友関係については割愛するが、島村卯月という人物を説明するにあたってとりわけ留意しなければならないのは、 彼女が地元の小さなアイドルグループに所属しているという点である。 さらに一点付け加えるならば、そのアイドルグループはもはや解散の危機に瀕しており、卯月もまたアイドル活動を辞める瀬戸際にいる、ということである。 しかしながら、彼女が自身のアイドル活動についてどのような葛藤を抱えているかということについては このSSの趣旨から逸脱するので読者諸兄は気にせずともよい。 重要なのは、アイドルの素質を備えた(少なくともアイドルを志そうとする程度には素質のある)少女が、渋谷凛と同じ高校に通っているという事実である。…… 3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/13(金) 08:11:32.04 ID:eCrKDArS0 さて、今、渋谷凛は家の花屋で店番をしている。 学校から帰ってくるなり親に留守を任されたのでエプロンの下は制服のままである。 客は一人も来ない。 退屈しのぎに店先の花の様子を見てみるものの、特に手入れが必要な商品もない。 その気になれば一日中花を眺めて過ごすこともできる凛だったが、この日は中々どうしてそんな気分になれなかった。 「友達か……でもハナコがいればわたしはべつに……」 凛はひとりごちた。 ハナコとは飼い犬の名前である。 凛は、ハナコと一緒に高校に通えたらいいのにな、と考え、それからハナコと一緒に授業を受ける風景を想像した。 悪くないな、と思った。 (ハナコは賢いから、もしかしたら私より勉強できるかも) この飼い主は根が真面目だがどこか間の抜けたところがある。 むしろ遠慮せず率直に憚りなく個人的な見解を述べさせていただくならば、この渋谷凛、きわめてアホに近い人種である。 そのようなわけで凛は、ペットに勉強を教わるというおよそメルヘンな妄想にふけりながら花屋のカウンター席で一人「でゅふふ」とほくそ笑んだ。 「あ」 気が付くと入り口に人が立っていた。 女性客が凛を見て目をぽかんとしている。 この上なく緩みきった凛のニヤケ顔はそのままの表情で固まり、次の瞬間、恥ずかしさに耳まで真っ赤になった。 続きを読む