転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1518233839/ 1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/10(土) 12:37:19.09 ID:p6iGZwjEO 何作目か覚えてないので初投稿です。 2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/10(土) 12:38:55.76 ID:p6iGZwjEO オフィスはとうに無人だった。 事務員などは定時で帰るし、定時を過ぎればあとは個々人の裁量で退社できる。 仮にやるべきことが残っていても、その大半は会社に残らないといけない業務ではない。 だから午後九時までわざわざ残業していく社員などは、俺の他に誰もいなかった。 パソコンの電源を落としてから、フロアの電気を順に消していく。非常灯だけが照らす足元は少し頼りなかった。 先ほどまで暖房を効かせた部屋にいたためか、廊下に出ると冷えた外気が肌に刺すようだった。 身体を震わせながら駐車場へと向かう。キーを片手に自分の車の前まで歩くと、もこもこの防寒具に身を包んだ妖精がそこに座り込んでいた。 薄い金色の長い髪。巻き込むようにマフラーを首に巻いている。耳当ては彼女には大きすぎるようで、耳からはみ出して頬までも覆っていた。 光沢のあるジャケットを着込んだ少女は、紛れもなく双葉杏であった。 3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/10(土) 12:40:02.84 ID:p6iGZwjEO 「よす」 「おっす。……こんなとこで何してんだ。もう九時だぞ」 「そーそー。プロデューサーいつまで仕事してんのさ。すっかり冷えちゃったよ」 「いや、知らんがな……」 プロデューサーからすれば、帰ろうと駐車場に来たら自分の担当アイドルが座り込んでいたのだ。 もちろんこんなところで待っているよう指示したつもりはないし、そもそも今日は三時間以上前に帰らせたはず。 本来いるはずのない存在に、怪訝そうな表情を浮かべるのも無理はなかった。 「ま、大方家まで送らせようって魂胆か……にしたって三時間は待ちすぎだろ。さっさと帰ればよかったのに」 「だーかーらー、プロデューサーがこんな時間まで仕事してなきゃよかっただけでしょ。人の迷惑も考えてよね」 「はいはい。分かったから乗ってけ」 4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/10(土) 12:41:17.08 ID:p6iGZwjEO ロックを解除すると、杏は飛びつくように助手席に乗り込む。溜め息を吐いてプロデューサーは運転席へと向かった。 ずっと冷えた空間に置かれた車内は外とそう変わらない肌寒さだった。 すぐにキーを回して暖房をつける。ごうごうと音を立てて若干冷たい風の後に、ぬるい空気が吐き出され始めた。 「はー……生き返る心地だよ。やっぱりエアコン・コタツ・ストーブは冬の三種の神器だね」 「そんなに寒がりならなんでこんなとこにいたんだよ。せめて事務所に戻ってくればよかったのに」 「そしたらどうせ『なんで戻ってきたんだ、帰れ』って言うでしょ?」 「まぁ遅くまでいられても困るしな」 「じゃあダメじゃん」 何がダメなんだ、と問い返しても返答は得られそうになかった。 元より時間を浪費することには長けている彼女だ。周りが思うほど、本人は労力とは思っていないかもしれなかった。 続きを読む