転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1528030938/ 1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/06/03(日) 22:02:19.10 ID:IMIN4WEW0 ハゲが目を覚ますと、辺りは見渡すかぎり黄金色の原野だった。 地平線から朝陽が見える。なるほど、朝の陽ざしで黄金色に輝いているのか。 ハゲは裸だった。一糸まとわぬ姿は、生まれたての赤子を思わせる。 髪の毛すら一本も生えていない。妙に頭が涼しいのは、そのせいだろう。 彼が立ち上がると、ザワザワと雑草が揺らめいた。 俺は何者なのだ。なぜ裸で草原に寝転んでいたのか。 そもそもここはどこなのか。 歩いてみる。湿った土が気持ちいい。 足の裏が少し沈み込むくらいか。毒のある虫や鋭い石も見当たらない。 2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/06/03(日) 22:04:02.80 ID:IMIN4WEW0 しばらく歩くと、水の流れる音が聞こえた。 音の聞こえた方に顔を向ければなんと、乳色の河が流れているではないか。 それも大河である。河岸に跪き、乳色の水を両手で掬ってみる。 匂いを嗅ぐ。乳の匂いがした。口に含む。冷たい。そして、乳の味がする。乳だ。この河は乳の大河なのだ。 牛の乳か、人の乳か知らぬが、ここまで大量の乳が流れているとは。 ハゲは喉の渇きを癒すため、さらに深く手を差し込み、乳を掬い上げた。 今度は、掌に透明な粘り気のある液体が残っている。舐めてみた。甘い。ハチミツだ。乳と一緒に、ハチミツが流れている。 どういうことなのだ。 黄金色の陽ざしが、強く原野を照らす。 眩しそうに眼を細め、乳と蜜を飲み干す全裸ハゲ。 なかなか珍妙極まる光景である。 3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/06/03(日) 22:06:27.31 ID:IMIN4WEW0 さて、この乳はどこを水源としているのか。探ってみよう。 ハゲは立ち上がると、大河に沿って北へ北へと進んでいった。 そもそも、北という概念すら、この世界にはない。河の流れに逆らって歩く。それだけだ。 またしばらく歩くと、ハゲは巨岩の前に辿り着いた。 岩の頂上が割れて、噴水のように乳が噴き出している。 岩乳(ガンニュウ) たぶん、そう呼ばれているのだろう。乳と蜜を噴き出す岩など、生まれて初めて目にした光景だ。 しかし、これが普通なのだ。普通でなくてはならないのだ。どうしたものか。 ハゲは座り込み、青ざめはじめた空を仰いだ。鳥も、虫もいない。無機質な空間にたった独り。 世界は滅びたのだろうか。ふと乳の河に目をやると、碧色に輝く透き通った魚が泳いでいた。 わし掴み、齧ってみる。 パキッと小枝の折れるような音。甘い。なんなのだこれは。飴のようではないか。 ほんのり、メロンの香りがする。メロン魚。メロン魚が泳ぐ岩乳の河。 そして河底に漂うハチミツを合わせれば、鬼に金棒である。 ふふ、まったく良い場所を見つけたものだ。 俺は絶対に、ここから動かない。動いてなるものか。 やっと見つけた安住の地。約束の地なのだから。 4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/06/03(日) 22:25:48.22 ID:IMIN4WEW0 忽ち、分厚い鈍色の雲が空を覆い尽した。何事かと顔を上げるハゲ。 瞬間、ハゲの青白い頬に一本の赤い線が走った。ドロリ、と血が流れる。 見れば、足元に鋭く研ぎ済まされたガラスの針が刺さっていた。 それだけではない。 手や足や腹に次々とガラスの雨が刺さる。これはたまらんと乳の河へ飛び込んだ全裸ハゲ。 息継ぎせずにガラスの猛攻を耐え抜けるか。なにが安住の地だ。なにが約束の地だ。 ちょっと油断すればすぐに殺しにかかってくるではないか。 乳河の底にへばりつきながら、ハゲはこれからについて沈思黙考した。 ガラスの雨はますます激しさを増した。 右尻肉に容赦なく突き刺さる。 いだい。 声を上げれば酸素が漏れる。 耐えろ。まだ耐え抜くのだ。雨が止むまで。 虹色の稲妻がまるでプリズムのように、ガラスの雨の間を飛び交っていた。 続きを読む