転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1526388408/ 1: ◆hQrgpWdMp. 2018/05/15(火) 21:46:48.70 ID:TeqkJU5v0 リーシャがまた置いていかれたので初投稿です。 百合、地の文、メインストーリーのネタバレ注意 2: ◆hQrgpWdMp. 2018/05/15(火) 21:47:32.94 ID:TeqkJU5v0 とある騎空艇の一室で重厚な碧い鎧に身を包んだ男性が、椅子に座って眠る12~13歳ほどの少女の体を優しく揺すっていた。 「リーシャ」 「ふぁ……どうしたの、父さん?」 まどろみから目覚めたリーシャと呼ばれた少女は、寝ぼけ眼で自らを起こした父――ヴァルフリートを見上げて尋ねた。 「目的地に着いた。降りる準備をしなさい」 「はい」 父の言葉に頷き身支度を始めるリーシャ。といっても、まだ幼いリーシャができる身支度など、寝崩れた服や髪を整えることと剣を持って行くことくらいしかないのだが。 「お待たせ、父さん」 「ああ。では行くぞ」 そう言って歩き出す父の背中にリーシャもついて行く。執務室を出て艦の出入り口まで歩いて行く間、すれ違う人達は皆ヴァルフリート、そしてリーシャを敬礼して見送る。 この騎空艇が秩序の騎空団の旗艦『グランアインス』で、乗組員は全て秩序の騎空団の団員達なのだから当たり前のことであったが、リーシャとしては『団長の娘』として自分を見る団員達の視線で居心地が悪い。 その視線が『団長の娘』へのものだけではないというのも一因であったが。 全空最強と謂われる七曜の騎士が1人、碧の騎士ヴァルフリート。一緒に歩いているため敬礼はされるものの、敬意を受けているのはヴァルフリートだけでリーシャはただその娘というだけでしかない。 同年代の中でもかなり腕に自信があったが所詮は子供で、まして同年代よりも強いなんてことは『碧の騎士の娘』ならば当然だから。 (我慢しなきゃ。私がわがまま言って父さんについて来ているんだもの) いつもの視線に耐えて父と共に騎空艇を降りれば、目の前に広がるのはどこまでも続く緑の草原だった。 (ザンクティンゼル……本当に田舎の島なんだ) 「リーシャ。来る前に話したが――」 「うん、わかってる。私はあっちの森の方に行ってるから」 「わかった。弱いとはいえ森には魔物も出る。十分に気を付けるんだぞ。夜までには帰ってくるように」 「大丈夫だよ。行ってきます」 いつも父に着いて回っているが、その仕事の性質上リーシャには見せられない案件ということも多々ある。そういうときはリーシャも無理は言わずに離れて行動するようにしていた。 (でも、こんな辺境の島に父さんがわざわざ来なきゃいけないことがあるのかな? 10日くらいはいるって言ってたけど) 静かで平和そうに見えるこの島に碧の騎士が訪れるだけの、それもリーシャに見せられないような重大な事情があるとは思えなかった。 それでもヴァルフリートが時間を無駄にできるほど暇ではないということも知っているリーシャは、自分には推し量れない何かがあるのだと納得して森へと向かっていった。 3: ◆hQrgpWdMp. 2018/05/15(火) 21:48:04.28 ID:TeqkJU5v0 静かだからだろうか、どことなく神秘的な雰囲気も感じる森の中をリーシャは1人歩き続けていた。 (剣の修練をと思ってたのに、魔物が全然出て来ない……) 修練のために魔物を探していたのだがウルフの1匹すら現れる様子がない。森の中さえ静かで平和だった。 (もっと奥に行けば出て来るかな?) そう思って奥へと進み続けていたときだった。不意に静寂を突き破って幼い女の子の悲鳴が響く。 「悲鳴っ!?」 リーシャが慌てて悲鳴が聞こえた方へと向かうと、6~7歳くらいの少女がウルフの前で震えている姿が見えた。 ウルフは今にも飛び掛からんとしていたが、少女は頭を抱えてしゃがみ込んでしまっている。 「危ない!」 剣を抜き放ちウルフへと斬りかかるリーシャ。リーシャにかかれば魔物の中でも最低レベルに弱いウルフなど敵ではなく、その一閃で勝負は決した。 ウルフが首から血を流して息絶えているのを確認し、リーシャは恐る恐るといった様子で自分を見上げる少女に手を差し伸べた。 「もう大丈夫ですよ」 リーシャができるだけ優しい声で言って笑いかけると、少女は大きな瞳に大粒の涙をためてリーシャへと抱き着き泣き始めてしまう。 「え、ええっ!? もう大丈夫ですよ! もう、魔物はやっつけましたから!」 呼びかけても泣き止む気配がなくどうすればいいのかわからないリーシャは、とりあえずなだめようと少女の綺麗な金色の髪をなでた。 「もう大丈夫」と何度も言いつづけながらなでていること5分ほど、ようやく少女は泣き止んだ。 「ごめんなさい……」 「いいんですよ。怪我はしてませんか?」 「うん、してない」 消え入りそうな声で謝る少女にリーシャは首を振り怪我がないか確かめる。少女の言葉通り本当に無事であることを確認し、ようやくほっと胸を撫で下ろした。 「森の中は魔物が出て危ないですから、お家に帰りましょう。私もついていきますから」 「うん! お姉ちゃんがいたら魔物出てきても安心だよ!」 少女に呼びかけるとさっきまで泣いていたのが嘘のように元気に頷き、跳びあがるように立ち上がった。『お姉ちゃん』という呼ばれ方に少しくすぐったいものを感じつつリーシャも立ち上がる。 続きを読む