転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1523732539/ 1 : ◆Xz5sQ/W/66 2018/04/15(日) 04:02:19.45 ID:g3FQvVoU0 === 「なあ、今日は少しぐらい遅くなっても大丈夫だろ?」と プロデューサーに訊かれた時、所恵美の胸は小さな高鳴りを感じることになった。 その日、四月の十五日は恵美にとって特別な日。 いわゆる一つのバースデーであり、祝われるのは自分であり、 そして世界中の四月十五日生まれが誰かからの祝福を受ける日でもあった。 現に、恵美はオフと言う名の祝福を彼から貰っている。 おまけに一日プロデューサーを好きにしていいというおまけつき。 今だって彼の腕には二人で回ったショップの袋が鈴なりで、道行く人が恵美らを見れば、 正にショッピングを楽しむ彼女と荷物持ちの彼氏といった様子だった。 2 : ◆Xz5sQ/W/66 2018/04/15(日) 04:04:20.24 ID:g3FQvVoU0 そんな中、黄昏近づく頃合いに、プロデューサーが確認するように言ったのである。 「遅くなっても大丈夫だろ?」純な琴葉じゃありゃしない。 「遅くなって? ええ、まあ、少しだけなら大丈夫ですけど」なんて一度断りを入れた後で 「――あっ! も、もしかして今のは、"そういう意味"のことだったり?」とかなんとか復唱するほど抜けても無い。 「うん! ゼンゼン大丈夫」 「そっか。良かった」 返してすぐに微笑まれて、思わずプロデューサーから視線を逸らす恵美だった。 夕焼けに負けない程真っ赤になってるその頬は、この後に期待を寄せる証でもある。 ……そりゃあ彼だって一応は男なのだ。驚かなかったと言えば嘘になるが、 普段は人畜無害な顔でいて、こんな風に自分を誘ってくるだなんて。 3 : ◆Xz5sQ/W/66 2018/04/15(日) 04:05:29.34 ID:g3FQvVoU0 「実は、予約はもう入れてあったりして。……都合がつかなきゃどうしようかと思っちゃったよ」 「そういうの、フツーは相手に確認しておくもんじゃない?」 「だけどほら、一応サプライズの体だったから」 「プロデューサーの行き当たりばったりってさ、仕事だけじゃないんだね~」 軽口をたたき合いながら歩く街並み狭まる距離。 互いの肩が触れ合うのも、全ては人波に隙間が少ないせいであり、 決して恵美の方からプロデューサーへと近づいて行ってるワケではない。 ただ、所恵美という少女は気遣いのできる女性なので、 自分たちがあまり横へ広がって道を占拠するのは他の通行人に悪いなー……とか、とか、考えた末に出来る形。 「で、予約とか言ってドコへ連れてってくれるワケ?」 尋ねるために開いた口。 別にアナタと二人ならドコへだって――なんて台詞は ギリギリのところで閉じ込めると、恵美は視線を隣へ移す。 自然、顔は見上げるように。両手を後ろで組んでみたり。 ワクワクと膨らむその気持ちが、足音になって表れる。 4 : ◆Xz5sQ/W/66 2018/04/15(日) 04:08:06.30 ID:g3FQvVoU0 「この時間なんだ。わかるだろ? ……夕食をご馳走したくてね」 「それって例えばお寿司とか? お祝いだから焼肉かな~」 とはいえだ。恵美もそんなお店へ連れていかれるだなんて本気で思ってるワケではない。 あえて行き先の予想を外すことで、彼が「違う違う。今日連れて行くのは――」 と、得意気に発言できるようこの場を整えてあげてるのだ。 こういう時、女性は少しおバカを演じるぐらいでちょうどいい。 男は乗せてなんぼである。手綱を握ればこっちのもの。 けれども、プロデューサーは途端に「しまった」といった顔になって。 「……もしかして、恵美もそういうヤツのほうが好きなのか?」 「ちょっとちょっとアタシ"も"ってのはどういう事~? まさか、他の子の誕生日にもおんなじことしてあげてるんじゃ」 そう恵美から問い詰められたプロデューサーは、 「いや、まあ、実のところ」と申し訳なさそうに頭を下げてしまうのだった。 続きを読む