転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521385460/ 1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/19(月) 00:04:21.14 ID:FrXSx/7ro === 今、765劇場女子更衣室に不埒な輩の影迫る! 辺りを警戒しながらやって来た、二つの怪しい人影はその手に大きな荷物を持ち、 用意していた合鍵を使って錠を外すと秘密の園の門を開けた。 するとそこにはなんの変哲も無いロッカーと、使い込まれた古い長椅子。 それに各種着ぐるみがスペースを占拠する空間はスウィートな乙女スメルで満たされている。 扉を開いた人影は、躊躇なく更衣室に侵入すると辺りを見回し笑い出した。 「くふふふふ……っ。思った通り、ここは劇場内でも特に甘美な匂いで満ち満ちている場所であるな!」 影の正体は男である。人相平凡、背格好普通。歳は二十歳のそこそこか。 彼は後ろに従えていたもう一人の人影の方へと振り返ると。 「亜利沙、手早く準備しろ」 「ラジャーです! プロデューサーさん」 亜利沙と呼ばれたその少女は、元気よく返事をすると手にした荷物へ目をやった。 それはいわゆる一つの掃除機で、彼女は電源コードをカラカラと伸ばすとプラグをコンセントにさした。 掃除機はキャニスタータイプ。予め吸引ノズルを取り外したホースだけを構えて意気揚々と亜利沙が訊く。 2 : ◆Xz5sQ/W/66 2018/03/19(月) 00:05:39.85 ID:FrXSx/7ro 「それで、早速始めますか? ありさの準備はいつでも来いのバッチグーです!」 「ふっ、そう急ぐこともあるまい。連中はレッスンルームへ行ったばかり……作業時間はたっぷりとある」 プロデューサーと呼ばれた男は亜利沙の問いに答えると、 自分も手にしていたハンディクリーナーを掲げてニヤリと怪しく笑って見せる。 ……この二人、これから更衣室の掃除を始めようとでもいうのだろうか? 否、彼らの目的は別にある。 それぞれが持っている掃除機は、この日この時の為に徹底した分解掃除を行った一品。 言うなれば完全清潔掃除機で、その内部は汚れの一つ残っておらず、 それを、今から、たっぷりと、更衣室中に広がる塵や埃で汚そうなどとは思って無い。 彼らが集めるつもりでいるのはこの部屋の中の空気だった。 室内には十代、二十代の若き女性アイドル達が残していった芳香が。 すなわち普段使っている香水や、汗の匂いの混じった独特な香りが空気となって存在した。 それを、この男は協力者でもある松田亜利沙の手を借りて、 掃除機という文明の利器の中に閉じ込めてしまおうとしているのだ。 3 : ◆Xz5sQ/W/66 2018/03/19(月) 00:07:51.72 ID:FrXSx/7ro 「いいな亜利沙? 我々の目的はただ一つ。集めた更衣室の空気を使って巨万の富を築くことだ。 かつては古の神がそうしたように無から有を生み出すことだ! 収穫したての果実の如きみずみずしい香りを素敵な容器へと移し替え、暁には!! 劇場売店で売って売って売りまくって――」 「儲けた利益で設備投資。劇場を大きくするんですよね!」 「その通ぉうりっ! しかも元手は殆どタダ同然。これに産地直売の強みを活かした良心的な価格設定と、 現地でしか買えない"限定"という名のブランドを付加した商品化……売れる! 売れるぞ! 俺には分かるっ!! 幾多のアイドルをプロデュースして来たこの手腕を振るった大作戦! ――ぐっふっふっふっふ、普段何かと口やかましい律子の奴もその鼻先に札束を突きつけられたならば何も言えまい。 むしろこの商才溢れる俺のことを、稀代の錬金術師として崇め奉り敬うことにもなるだろう!」 そうして男は阿呆のような高笑い一つ、掃除機のスイッチをポンと入れた。 亜利沙も彼に倣って辺りの空気を集めだす。 機械の駆動音が室内を満たし、二人はせっせとノズルをあちらこちらへと向けていく。 続きを読む