転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1463836215/ 1: ◆XkFHc6ejAk 2016/05/21(土) 22:10:15.90 ID:MICLRs0L0 雨が降っている。 鈍色の魚が、とぷりと波紋を立てて、コンクリートの町の中を、縦横無尽に泳いでいる。 彼らは何処から来て、何処へ行くのか。 町の人達は誰も知らない。そもそも、彼らに触る事が出来ないので、確かめようが無い。 あれは一体何なのか。 誰もそんな事は考えない。泳いでいく魚達には目もくれず、大人達は足早に歩いていく。 此処は冷たい無関心の町。 2: ◆XkFHc6ejAk 2016/05/21(土) 22:15:38.79 ID:MICLRs0L0 少年(この町は息苦しい) 「なんだ、今回のテストは」 少年(無表情で、感情を感じさせない声で、父さんは言う) 少年「いや、今回は難しくて、平均点が低かったんだ。一応平均点よりは上の点数だし、クラスでも一番……」 「言い訳をするな。前よりも悪い点を取ったのは事実だろう」 少年(じろりと何処か虚ろな目をこちらに向ける。彼に必要なのは、成績が下がっていないという「事実」だけ) 少年(僕が深夜まで勉強していたとか、苦手な分野を頑張ったとか、そんなものは必要ない) 少年「でも、最後のこの問題を解けたのは僕だけなん……」 「……」 少年(無言の圧力。彼は僕の事なんて見ていない) 少年「……ごめんなさい」 少年(この町は息苦しい。その息苦しさから少しでも逃れるために) 「部屋に戻って勉強をしろ」 少年「……はい」 少年(僕は今日も、心のナイフで自分を殺す) 3: ◆XkFHc6ejAk 2016/05/21(土) 22:19:06.61 ID:MICLRs0L0 少年(雨が降っている) 少年(近くの工場から吐き出されるガスは、今日も僕の肺を痛めつける) 少年「あ……猫」 少年(小さな黒猫だ。濡れきってひどく震えている) 少年(傍らには、母親と思われる猫。力尽きてしまったのだろうか) 少年「大丈夫かい? とにかく、温めないと」 少年(僕は急いで、無駄に大きな屋敷へ戻る) 少年(こんなに広くなくとも、十分生きていけるだろう。金持ちの価値観はよく分からない) 「少年」 少年「!」 「……何ですか、それは」 少年「あ、親が死んじゃったみたいで、温めてあげようと……」 「捨ててきなさい」 少年「温めたらすぐに外に戻すよ! それくらいならいいでしょ?」 「捨てろ、と言ったのです」 少年「……」 「お父上が言わねば分かりませんか」 少年「……はい」 少年(こんなに広いのに、子猫一匹が入る隙間もないのか) 少年(ああ、息苦しい) 続きを読む