ここ10年くらいで課題として認識され始めているのが、増えすぎた博士号取得者です。研究をしてそのまま大学で継続するつもりが、あまりに過酷すぎる椅子取りゲームに生き残ることができない人が続出しています。 オススメ記事 <大学教員の需要はこの50年間で右肩下がり、今や博士14人に1人しか教員のポストはない> 東洋経済オンラインの「52歳大学非常勤講師・年収200万円の不条理」(1月12日)という記事が注目を集めている。大学院博士課程を終えたものの、大学の専任教員になれず、非常勤講師という不安定な身分で糊口を凌いでいる男性のケースだ。 ADVERTISING inRead invented by Teads 博士課程修了者の多くは、大学教員等の研究職志望だが、少子化もあり採用は年々減少している。その一方で、90年代以降の大学院重点化政策により、博士課程修了者は激増している。1990年では5812人だったが、2017年では1万5658人に膨れ上がっている。 昔は、需要が供給を上回っていた。高度経済成長期の1965(昭和40)年の博士課程修了者は2061人だったが、この年に発生した大学教員の需要数(当該年5月の本務教員数から、前年5月のそれを引いた数)は3037人。単純に考えると、希望者の全員が大学教員になれたことになる。 大学教員市場がどれほど開かれているかは、後者を前者で割った数値で測られる。1965年は1.47であったが、最近は目を覆いたくなるような状況になっている。<図1>は、1965~2017年の時系列推移をグラフにしたものだ。 博士課程修了者(供給)は大幅に増えているが、大学教員の発生需要数は減っている。需要を供給で割った開放係数は、70年代後半に1.0を下回り、現在まで低下の傾向をたどる。大学院重点化政策が始まる前の90年では0.46だったが、2017年では0.07という惨状だ。最近では、14人に1つのポストしかないことになる。 社会の高度化に伴い、博士号取得者に対する民間からの需要も増えるだろう。こう踏んでの大学院重点化政策だったが、その予測は見事に外れ、研究畑しか行き場がない状況は変わっていない。その結果、大学教員市場は閉塞化を極め<図1>、「オーバードクター」問題が以前にも増して深刻化している。冒頭の記事で紹介されている男性は、レアケースではない。 大学院博士課程の学生募集を当面の間停止すべきという提案もあるが(潮木守一『職業としての大学教授』中央公論新社、2009年)、悲惨な末路をたどる若者の増加、国税を投じての無職博士量産、という弊害が出ていることを考えると、このような措置もやむを得ない。 via NEWS WEEK 博士を取っても大学教員になれない「無職博士」の大量生産 悪いのは誰か この話題に関する記事は何度か書いてきましたが、いつも無力感に襲われます。あまりにも酷すぎる現状に対して、取れる手など殆ど無いからです。このような状況になってしまったのは文科省の大学院生倍加計画が大きな要因でしょう。 卒業した後の就職先が基本的には研究職しかないのにもかかわらず人ばかり増やした政策。生きていけない博士号取得者を大量に作った文科省の罪は極めて重いものです。大体、倍加計画を行った理由が諸外国と較べて博士号取得者が少ないというものだったというのだからお笑い草です。 海外では、例えばアメリカでは博士課程の学生には給与を支払います。レベルの高いところであれば数十万円。同い年の人間が働いているのと同程度の給与を得ることができるのです。それに比べて日本は学費を支払わせ、一部の人間が得られる奨学金も月に20万円。副業は禁止。そこから保険料や学費を支払わなくてはなりません。並のブラック企業ではありません。 そんな風に知識を持った人間を馬鹿にしていることが許されるような社会で、博士号取得者など求められるわけがありません。高い専門性を持っていても、それを活かす事のできるマネージャーがいないのです。愚かなことですが、これが現実の博士号関連の政策の現状です。 政府の罪は重い 研究者を育てておきながら、研究者として生きていけない社会を作った文科省の罪は極めて重たいものでしょう。とはいえ、実社会において博士号取得者を使いたいと思う人事が少ないことも事実。こればかりは仕方がありません。なんといっても日本企業は何でも言うことを聞くジェネラルな人間しか扱うことが出来ないからです。 だから、外部から優秀な人材を引っ張ってくることも苦手で自社で育成しようとする。それはそれ以前に学んできたことの否定から始まります。そのような企業ばかりであるにも関わらず最近は非正規雇用が増え、まっとうに育てるつもりもなくなってきています。 要するに、日本全体が人材と言うものに対して徐々に投資をしなくなっているということ。日本がこのまま弱体化していくのも道理だということですね。