転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1458555819/ 1 : ◆i/Ay6sgovU 2016/03/21(月) 19:23:39.50 ID:YEu02TvIO 「ふう……。今日もレッスン、疲れたな……」 ベッドの上で横になりながら、黒髪の少女は呟く。 「アイドル……かぁ……」 まるで他人事のような言い方は、当然、自分の状況に向けられたものだ。 そしてその口調からは、自分の飛び込んだ環境への戸惑いが滲み浮かんでいる。 「明日も頑張ろう……」 小さな声を残して眠りについたこの少女――小日向美穂――は、つい数日前まではただの、養成所に通う、アイドルを夢見る1人に過ぎなかった。 2 : ◆i/Ay6sgovU 2016/03/21(月) 19:24:58.15 ID:YEu02TvIO とは言っても、基本的にネガティブな思考回路を持ち合わせている彼女としては、アイドルにはなれないまでも、せめて自身のあがり症の克服に繋がれば……、という認識ではあったのだが。 田舎から上京して養成所に通い始め、なんとかレッスンをこなす日々。 共に励む仲間は、ある者は事務所に所属が決まり、ある者は諦めて養成所を去る。 “自分はどうなるのか”と考えないわけではないが、わからないことを考えても仕方ない上にどんどんネガティブな想像ばかり浮かんでしまう。 枕が気づかぬ間に濡れていることだってあった。 レッスンを休むことは無かった。他人からは偉いねと言われるのだが、自信の欠如の裏返しなのだから誇ろうとも感じない。 例えば、本気でアイドルになることを夢見ていて、そのために毎日自分を高めるために努力を続け、いつも前向きな人がいるのなら。そういう人こそ称賛されるべきではないだろうか。 3 : ◆i/Ay6sgovU 2016/03/21(月) 19:26:05.99 ID:YEu02TvIO ある日、美穂が養成所に行くと、見知らぬ少女がトレーナーと話をしていた。 あの書類には見覚えがある。確か、ここに入る際に書いたものだ。ということは、新しい仲間かもしれない。 「小日向さん、ちょっと来てください」 「は、はいっ」 美穂の視線に気づいたトレーナーに呼ばれる。どうやら、挨拶を、ということらしい。 「こ、こんにちは!小日向美穂ですっ!よ、よろしくお願いします!」 美穂としては中々どうしてスムーズに言えたものだ、と感じた挨拶だが、トレーナーは苦い顔。 そしてそれを意にも介さず、綺麗な長い茶髪を携えた少女は、笑顔をいっぱいに広げて言った。 「初めまして!島村卯月です!今日から頑張ります!よろしくお願いします!」 4 : ◆i/Ay6sgovU 2016/03/21(月) 19:27:03.01 ID:YEu02TvIO 『気が合う』という言葉はこういう時に使うんだろうな。 卯月と出会ったその日には、美穂にはそのような思いが芽生えていた。 まだ顔を合わせて数時間。卯月が初めてのレッスンを済ませて、その難しさに驚嘆の声をあげた後、一緒に帰る道で。 「じゃあ、美穂ちゃんは私の先輩ですね!」 「ええっ!?そ、そんなことないよ!わたしだってまだ通い始めて数か月だし!」 「でも、ステップとか、ステキでした!」 「う、卯月ちゃんだって、初めてとは思えなかったよ!わたしの最初の頃なんてもうホントひどくて……」 「本当ですか?ありがとうございます!追い付けるように頑張りますね!そして、一緒にアイドルになりましょう!」 「……うん!」 続きを読む