貧しい人には魚を与えるのではなく魚の釣り方を教えよ-そんな格言が国際協力ではよく言われる。しかし、日本の福祉政策では案外それが出来ていないというのが現実だ。与えるだけでは救われない人たちに出来ることをしないと社会保障は膨らみ続けるばかりである。 オススメ記事 安定した仕事に就けずに、生活に困っている人の自立と社会参加を着実に進める。そのための支援体制を強化したい。 生活困窮者自立支援制度の見直しに関し、厚生労働省の検討会がまとめた報告書は、就労支援や家計相談の拡充などを打ち出している。 自立支援制度は、2015年度に始まった。不安定雇用の増加などで生活保護受給者が増えたためだ。失業や病気、借金などで生活保護に至る手前の人を早期に発見し、適切な支援につなげることで、自立を後押しする。 実施主体は、福祉事務所を設置している都道府県や市区などだ。総合相談窓口を設置し、個々の状況に応じて支援プランを作成する。就労訓練や家計相談、子供の学習支援も、任意で実施する。 導入から2年間で45万人の相談を受け、12万人を継続的に支援した。そのうち6万人が就労や増収を実現している。 一定の成果を上げているが、課題も多い。任意事業の実施状況は、地域ごとのばらつきが大きい。長期離職者や引きこもりの人に職場体験などをしてもらう就労準備支援の実施自治体は44%、家計相談は40%にとどまる。 若年層の引きこもりは54万人に上ると推計される。中高年層でも増えている。親の高齢化で、経済的な困窮に陥る恐れが高い。 困窮者の中には、家計の把握や中長期の生活設計ができずに、借金を重ねる人も少なくない。 報告書は、就労準備支援や家計相談事業の義務化も念頭に、福祉事務所を設置している全自治体での実施を求めた。自治体の積極的な取り組みが望まれる。 困窮者は孤立しがちで、支援の情報が届きにくい。対象者を把握するため、福祉、医療、住宅などの関係部門が密接に連携することが大切だ。専門的ノウハウを持つ人材の育成も欠かせない。 報告書には、生活保護制度の見直しも盛り込まれた。保護費全体の半分を占める医療扶助の抑制のため、受給者の健康管理支援と過剰受診の是正策を導入するよう提言した。就労による自立支援の強化と併せて推進すべきだ。 来年度から生活保護基準が変わり、食費や光熱費に充てる生活扶助が受給世帯の67%で最大5%減る。一般の低所得者世帯の消費支出との均衡を図った結果だ。 この手法では、デフレ下で受給水準が極端に低下することを懸念する声がある。基準の設定方法の再検討も必要だろう。 via: 生活困窮者支援 自立促進へ体制を強化したい : 社説 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 生活保護で救われない人たち 生活保護で救われない人たちがいる。それどころか、生活保護によってますます苦しくなる人達が少なくない。なぜなら、生活保護を受ける段階まで行ってしまうと生活の立て直しが極めて難しくなるからである。生活保護を受けるためには、資産を持ってはならない、頼りになる親戚がいてはならないなどの条件が必要になる。そして、そうなってしまってはもう生活保護頼みの生活にならざるを得ず、その状態で生活を立て直すのは難しい。 日本の生活保護は「もうどうしようもないくらいボロボロです」という人にしか支給されない。そしてそのせいで、その人達が再起不能になってからの支援となってしまい、その支援が長引く傾向にあるのだ。もしも「ちょっといま助けが欲しいかも」というレベルで支援をしていれば、すぐに立ち上がることが出来る人も、現行の制度だと生活保護によって却ってボロボロになってしまうというわけだ。 これは医療に置き換えると非常にシンプルに理解出来る。つまり、予防のほうがコストが低いのだ。風邪をひいてしまうと色々マイナスが生じるが、予防しておいて小さなコストで最大のマイナスを避けるほうが良い。これは当たり前のことだが、中々人間合理的には生きることが出来ない。だから個人ではそういう判断が難しいのはわかるのだが、国家はそうではいけない。社会福祉がしっかりしている国だからこそ、ちゃんと効率を考えて動くべきなのだ。 生活保護の究極は、生活保護が0になること 一見矛盾しているように聞こえるかもしれないが、生活保護の本当の理想は「誰も生活保護を受けなくても大丈夫な状態になること」である。生活保護は先述した通り、本当にこれ以上生きていけないというところまでボロボロになってからでないと支給されない。そのボロボロな状態というのがもう既に辛いことなのである。辛くなってからでないと救われないというのは感情レベルでは理解出来るが、政策として考えたら決して良い状態であるとは言えない。 本来国民は貧困などに窮することなく幸福を追求することが出来るはずだし、出来るようにするために国家は政策などでそれを支援する。それが出来ていない現状を変える必要があることは間違いない。具体的には、この新聞の社説にもあるように早期の雇用支援、子育て支援などを充実させていくことが重要だろう。 国家だけではなく、都道府県レベルでの働きかけが極めて重要だと思われる。地方の財源を「あげっぱなし」の生活保護に使うだけでなく、「一時的に支える」生活支援・雇用支援に使えば、最終的に掛かるコストは絶対に小さくなる。効率化のためにも、生活保護よりももっと意味ある自立支援に向かっていくべきだろう。